○北東(くだり)の風
海沿いに面したわが町では、季節によって様々な強風が吹きます。その際たるものは冬の北西の季節風(「西」と呼ぶ)です。シベリアから張り出した西高東低の気圧配置の等高線が混むと、何日も何日も季節風が吹き荒れ、人々は仕事も出来ぬままじっと春の来るのを待つのです。やがて春一番の南西の風(「やまぜ」と呼ぶ)が吹くと一気に春めいて、しげく雨が降って山川草木が息吹くのです。やがて春風が収まると梅雨の雨が大地を潤し、やがて梅雨が上がると太平洋高気圧から噴出すような南からの熱風が真夏を連れてやってきます。そして中秋の名月ごろを境に北東の風(「くだり」とよぶ)が吹き秋は次第に深まってゆくのです。
今はその季節の変わり目となる北東の風が吹く頃です。今日もかなり強い北東の風が吹いて、海は大荒れといった感じです。これ程強い風が吹いているのに、松山市内に行くと穏やかな秋風のようで、思わず「おやっ」と首をひねりたくなることが何度もありました。
昔から、「夫婦喧嘩とくだりの風は夕方になったら凪ぐ」と言われています。確かに朝した夫婦喧嘩は夕方になると和らぐし、くだりの風も夕方になると凪ぐのです。しかしこのくだりの風はこれから秋が深まるまで、何日も吹いて、結局は雨が降るまで止むことはなく、天気が良いのに漁に出れない日が続くのです。この頃の天気図の等高線は冬の縦長に比べ横長になっているから北東の風が吹くというのがどうやらメカニズムのようです。
今日も双海の海はくだりの風が吹いて大時化でした。海岸を一直線に通っている国道も今日は並がテトラポットを越えて打ち上げ、時折海水が車のフロントガラスに飛び散っていました。この海水は厄介でフロントガラスに付着して乾燥すると前が見えなくなるようになるため、前もってウォッシャー液で洗い流すか、家に帰ると水をかけて落としておかなければならず手間ものです。
沖合いの波間に漂うようにして遊んでいたユリカモメも港の中の並のない場所へ引越ししていましたが、このカモメたちは冬になると寒いのか船の舳先や港の突堤にカモメの水兵さんよろしく、行儀よく並んで冬越しをするのです。明日も明後日も多分くだりの風が吹くことでしょう。
「古老言う 夫婦喧嘩と くだり風 宵には凪ぐと これって本当」
「くだり吹く 今年も秋が また来たか 六十回も 季節の変化」
「海沿いが 故に大風 吹き通る 都会じゃ秋は 穏やかなのに」
「昨日まで 暑い暑いと 言ってたが 今日は親父も 厚着ファッション」