○5Sは難しい
私のように26歳で第一次産業から転職して、35年間地方公務員をやり、リタイアして6年が経った人間にとって、転職と退職は自分の生き方が180度も違う転機になったはずでした。最初の転職は体調を崩して漁船の船長からの転職でしたから、羅針盤や海図が六法全書になり、漁具が文書になったり随分戸惑いました。船は板子一枚下地獄といわれる狭い空間だし、危険が常に隣り合わせだったため、いつも親父から5Sするよう躾けられていました。転職した役場は漁船以上に広い空間なのですが、自分に与えられたのは机と椅子、それに前任者から引き継いだ書類がぎっしり詰まったロッカーだけでした。その世界も社会教育13年、産業課4年、企画調整室9年、地域振興課10年、教育長2年と4回の異動で終えました。
私にとって最大の異変は6年前に合併を機に退職でした。思うところがあって再就職はしなかったため、35年間の公務員生活で幕切れのはずでしたが、あれから6年も経つというのに公務員もどきの生活から抜け出すことが出来ず、未だに講演活動やボランティア活動、まちづくり活動を行い退職前の延長線上にいるのです。ゆえに5Sが中々出来ないのです。
5Sとは掃除・整理・整頓・清潔・習慣の頭文字がSなのでそれらの総称です。その意味は次のとおりです。
○清掃ー掃いたり拭いたりしてゴミや埃、汚れなどを取り去ること。
○整理ー乱れた状態を整えてきちんとすること。
○整頓ーきちんと片付けること。
○清潔ー汚れがなく衛生的であること。
○習慣ー繰り返し行ううちに、そうすることが決まりのように身につくこと。
この5つのことはいずれもよく似た言葉で、子どものころから両親や学校の先生、職場の上司から大切な教えとして諭されてきました。また「上手な整理整頓の勧め」という現代流の書物を読むと納得してそのことを実行しようと決意をするのですが、長年持続するとなると中々習慣化するのは難しいというのが実感のようです。
この度息子家族と同居するため、自宅をリフォームし荷物の移動を毎日のようにやっていますが、毎日疲れるほどにやればやるほど、まるで荷物の山の中で暮らしていたような錯覚すらして、寝る前には妻と二人ため息を漏らしているのです。それでも朝起きると少しずつ片付いて行く部屋を眺めながら、5Sの必要性を痛感し習慣化しようと心新たにしています。
5Sの極意は捨てることです。1年以上使わなかったものは捨てた方がいいそうです。例えば書棚の中に眠る広辞苑などの辞書類は退職後始めたインターネットの普及によって、完全にめくることもなくなったし、関係する書類も殆ど必要でなくなりました。しかし暮らしの小道具となると中々捨てることが出来ず、結局は倉庫の中で眠ったまま埃を被らせてしまうのです。
私の老い先もカウントダウンが始まりました。でも私が息子たちに物心両面で残し伝えるものもいっぱいあって、これから先も5Sへの心の葛藤は続くことでしょう。
「この度の 息子家族と 同居する 家の騒動 ほとほと疲れ」
「捨てきれず 結局右から 左へと 移動しただけ ほんの整頓」
「田舎ゆえ 広いがゆえに 捨てきれず 整理整頓 出来ず一生」
「掃除する 度に5Sを 思うだけ ましかも知れぬ 今日も掃除す」