○色づき始めた庭のシノブ
南に面した私の書斎は急峻な山が家の近くまで迫っているため、石垣を利用した細長い畑や庭が見えて四季を感じることができます。山茶花や松、もみじ、クロガネモチなどが植えられていますが、畑に植えられている樹木の殆どは、子どもたちが12歳の少年式を迎えた時に森林組合から記念品で貰ったものなのです。子どもたちは貰ったことすら忘れているようですが、親父が孫の成長を確かめるように大切に育ててくれています。
そんな木に混じって高さ1メートルもある庭石にシノブという蔦のような植物が絡まっている場所があります。これも私がふるさと七名山のひとつ黒山から30年も前に採取してきたシノブを親父が絡ませて作った秀作なのです。今では石にしっかりと絡まって夏の強い日差しにも耐えて生きているのです。「耐え忍ぶ」という言葉がありますが、語源はこの植物から来ているのではと見まがう程に逞しく石にへばりついていて、この30年間、この過酷な条件の中にも関わらずたくましく生きている姿に深い感動を覚え、何度も励まされてきました。
シノブには園芸種で年中葉っぱの落ちないトキワシノブというのがあり、鉢植えで持っていますが、庭のシノブは野生のもので石にへばりついた蔓から春になるとワラビのような芽が出て、それは綺麗なシダのような葉っぱが茂ります。青々とした姿は夏の暑さを和らげて涼を感じさせてくれたりもするのです。
シノブは落葉植物です。紅葉が始まる秋になると色づき始め、11月には黄色く色づくのです。わが家のシノブも数日前から色づき始めました。あと10日もするとそれは見事に紅葉するのです。一昨日島根県へ行く途中、広島県の山奥の恐羅漢渓谷の入口を通りましたが、そこで見た松の木に絡まった蔦が真赤に紅葉した姿を感動の面持ちで見ましたが、車窓に広がる秋色の景色を身ながら、わが家のシノブを思い出したものです。
「小さい秋見つけた」という歌があります。コーラスグループのボニージャックスかダークダックスが歌っているようですが、まさに石に絡まって四季を演出してくれるわが家の庭のシノブは「小さい秋見つけた」って感じなのです。昨日は間もなく始まる大相撲九州場所の番付も発表され、わが郷土の力士玉春日も2場所連続の勝ち越しで前頭9枚目まで順位を上げてきました。既に峠を越えた玉春日に多くは望みませんが、ひたむきに、ただひたむきに押し相撲に徹して生きている彼の姿にシノブを重ねました。九州場所とともに日本列島に北西の季節風が吹き始め、私たちの町の前に広がる瀬戸内海も次第に波の高い日が多くなってくるのです。
「庭石に しっかり絡まり 生きている シノブあやかり 今日まで生きた」
「幾葉か 色づき始めた シノブの葉 小さい秋を 見つけカメラに」
「そこここに 探せば見える 秋の色 季節移りて 今朝は一枚」
「盆栽の ようにも見える 庭の石 日本の四季を 表現するよに」