○隠岐の島へ
境港と松江市は運河というか港というか分らない入り江に架かった橋で結ばれ、「えっ?、境港は鳥取県?」と思わせる奇妙な県境なのです。最近まで橋を渡った向こうは島根県美保関町でしたが、合併で松江市と鳴ったようで、そこそこに美保関町の名残の看板が残っていました。橋を渡って山道のトンネルを抜けると七類港という
フェリー乗り場です。岸壁には島へ行くには大き過ぎるような「おき」と「くにが」というフェリーが接岸していました。日本海の海の尋常でない荒さは訪ねた人間でないと分らないのですが、一昨年11月は季節風が吹き荒れ同行した妻は船酔い気味でした。
私の乗った船は「おき」でした。他の島や港に寄らない直行便なのですがそれでも9時にドラの音とともに出航しても2時間20分もかかるのです。船着場で偶然にも生涯学習センターの山本さんと待ち合わせたように出会いましたが、はや立ちの疲れか船内では1時間半もぐっすり寝込んでしまいました。
船着場には教育委員会の吉田さんが出迎えに来ていてくれて、昼飯前の島内散歩を楽しみました。前回島を訪ねたときは斉藤課長さんのご案内であちらこちらを見せていただきましたが、妻と二人連れだったこと、斉藤さんが大の闘牛マニアなので、宇和島が闘牛の地であることもあって牛談義に花が咲き、肝心な八尾杉のことを詳しく覚えていないこともあって、まずそこへ案内してもらいました。
どうですこの杉の木、樹齢2千年といわれている杉の大木がこうして人里近くの神社に凛として立っているのです。根周りは優に15メートルを越す杉の大木に思わず圧倒されました。屋久島の古代杉も凄いと思ったけれど、日々の暮らしの中でこうした大木と共存できることは島人の誇りでしょう。2千年を生きて、島の歴史や暮らしを2千の年輪に刻んできた杉は私に何をメッセージとして伝えたいのか、神木に失礼とは思いましたが手を伸ばし、そっと杉の木の肌に手を押し当てて見ました。2千年という途方もなく長い歴史の重みで体が震えるような感触でした。
数年前に台風で枝が折れたり樹勢が衰えたりしたそうですが、樹木医の適切な処置もあって古い杉にしては何となく若々しく感じました。
次に訪れたのは国分寺です。後醍醐天皇が隠岐に流された時、御在所となった跡地が国の指定を受けて大切に保存されていました。
このように隠岐の島には至る所に史跡がゴロゴロしていて、朽ち果てることもなく物語が伝えられているのです。国分寺という格式の高いお寺さんだけあって受付をされていた住職さんも何となく気高く、養育委員会の吉田さんの顔パスで物語のマイク放送を聞きながら歴史に触れることが出来ました。
「せっかく島に来るのだったら一便早く来て講演をお願いします」と、今は総務課長にご昇進された斉藤さんの口利きで、花の会の講演を午後2時からすることになって、会長さんはじめ3人の役員さんとお食事に参加させてもらいました。「昼からこんな豪華な食事を食べていいの」と言わんばかりの島ならではの海の幸に舌鼓を打ちました。貝汁にはフジツボやカメノテなどの珍味が入り、ウミウシという、私のように海に詳しい人間ならそのグロテスクな姿を知ってるので余り食べないこれぞ珍味というべき食材にもう満足でした。
料理屋さんの入り口に紫のほたる袋の花がf斑入りのツワブキの葉っぱをバックに可憐に咲いていました。花の会の招きなのでデジカメを向けてパチリ撮ったら、店のおばちゃんが裏の花も見て欲しいと狭い畑に連れて行きました。まあ花好きのおばちゃんで所狭しとあれやこれやと植えていました。せがまれて一枚パチリです。
花を作る人の心境はこんなもんで、人に褒めてもらうことが一番の妙薬なのです。おばちゃんは私の乗った車が見えなくなるまでずっと手を振る続けていました。ほっとする、それでいて温かい島のもてなしの心にあったような気持ちでした。
講演会は参加者50人くらいと聞いていましたし、花の会の主催で女性の会だから「女性が輝くときまちが輝く」というタイトルにもかかわらず何人もの男性も顔を見せ、80人を越える勢いで嬉しい集会でした。わが町の花も花の会はじめ多くの人たちが参加して、毎年きれいな花を咲かせてくれていますし、先日も愛媛新聞の一面で潮風ふれあい公園のアジサイの花が季節の花として紹介されていました。花づくりは奥が深く息の長い運動です。でも花のある暮らしは歌のある暮らしと同じように彩を添えてくれるのです。
フェリーおきの船内に花の会が作成した隠岐の島町の花暦が張られていました。花は咲かない時期に来たらそれこそ失望です。こうして花の見ごろの場所や季節が情報として流れることは、島のイメージアップに役立ちます。これまでの観光はどちらかというと自然や歴史のようなものが中心に紹介されていましたが、このパンフレットが隠岐の島の新しい観光資源になることは疑いのないことです。花の会の皆さんの活動に大きな拍手を送りたいものです。
「隠岐シャクの 咲く島一度は 訪ねたい 新婚旅行で 買いし花なく」
「見てください いきなりおばちゃん われ誘い 畑のアオイを 自慢したげに」
「花便り 観光資源に 活かすべき 島の魅力が うんと増えます」
「もの言わず 二千年もの 年輪の 衣まといて いまだ矍鑠」