〇子どもから大人へ
人間は必ず子どもという時代を経て大人になります。私たちが子どもの頃は食べるものにさえ事欠く戦後の物のない時代でしたから、子ども時代は中学校3年生くらいまでだったと記憶しています。半ズボンが中学生になると長ズボンに変わったときは、少しお兄ちゃんになったような錯覚を持ちましたが、それでもまだ気分は子どものままでした。田舎には子ども会という子ども自身が運営する組織があって、年下の子供たちの面倒を見る時は大人の真似をして、どこか大人の仲間入りをしたような振る舞いをしたものです。
私が子供時代を卒業したと思い込んだのは、中学校を出て愛媛県立宇和島水産高校へ親元を離れて進学した時でした。これまで殆ど親元を離れたことのなかった私が、いきなり違う世界へ飛び込んだのです。今思えば宇和島も田舎の街なのにお城をいただく宇和島の街がどことなく都会に見えたのです。本屋や楽器店などが軒を連ねた袋町商店街はまるで夢の世界だったし、映画館の看板にはあこがれのスターたちが描かれていたのです。私は完全に子ども時代を卒業していましたが、残念なことに男子生徒しかいない高校だったので恋をする機会を逸しました。それでも親のいないことをいいことに中学校の女性同級生と手紙を交換したりしながら穏やかな3年間の青春時代を過ごしました。
私にはもうひとつ自分が飛躍したと感じる出来事がありました。それは水産高校漁業科では3年生になると実習船えひめ丸に乗船して遠洋航海に出なければならないのです。僅か214.5tの船に乗って太平洋に乗り出すことはもう未知の世界で、珊瑚海までの往復やマグロはえ縄漁、イギリス領サント島への寄港などは私の人生に大きな影響を与え、子ども時代後を完全に卒業したのでした。
現代の子供が子ども時代を終えるのは大学進学だといわれています。それは鳥の世界と同じで、古巣を飛び立ち大空を舞いながら自分で餌を探さなければ生きていけない行動ができることなのです。モラトリアム人間といわれるように、大人になれない子どもが多いのも事実で、少年犯罪の殆どは子ども時代の育ち方に問題があるのかも知れません。子どもらしい子ども時代を過ごした人間しかいい大人になれないのだとしたら、もっといい子どもらしい子ども時代を過ごさせてやることが大事です。時代は変わっても子どもは人の心の温かさや自然からの学びなど案外不易なことに感動するものです。もう一度子どもの育て方を考えてみたいものです。
「いい子ども いい大人への 登竜門 育てる基本 変えてはならぬ」
「今の子は 子どものころに パソコンを 知ってはいるが 知らぬことあり」
「人間は 今も昔も そんなには 変わらぬものと 心得育て」
「もう一度 子育てしたい 思っても 後の祭りだ 孫に託すか」