shin-1さんの日記

○ある若いお母さんからの相談

 「若松さん、私はもうどうしてよいか分りません」と開口一番悩みを訴えるのは、まだ30代の若いお母さんです。旦那さんのお父さんから頼まれて結婚披露宴の司会をして以来、親しく声を掛け合う間柄なのでこんな悩み訴えてきたのでしょう。「立ち話もなんだからまあお座りや」と諭すのですが、もう既に目には涙がいっぱいでした。シーサイド公園の少し離れた所の階段式護岸に腰かけ話を聞きました。私は言葉や顔の形相からてっきり夫婦間の不仲でもと思っていましたが、話を聞くと今度小学校2年生になった息子さんのことなのです。

 「恥かしいことなのですが、実は私の息子が私の財布から千円づつ2回もお金を盗んで・・・・」と切り出した話によると、そのことが分ったのは「家計簿の帳尻が先月も今月も千円合わなかった」そうです。おかしいと思いつつパートの仕事の忙しさですっかり忘れていましたが、昨日偶然にも近所のお店から友だちと楽しそうに買い食いをしながら出てきた息子さんの姿を見かけたのです。自分もその店で夕食の買い物をしようと思っていたので、買い物をレジで清算する時顔見知りの店番の奥さんに聞いてみたそうです。「さっき買い物をして出て行ったのはうちの息子ですがどんなお金を払いましたか」。「はい千円札でしたよ」。「先月も来なかった」。「確かな記憶ではないけど、確か先月も千円で買い物したよう気がするけどそれが何か」。「いえちょっと」とお茶を濁してその店を出て家へ帰り、息子の帰りを待って問いただしたそうです。最初はおばあちゃんに貰ったお金だとか自分の小遣いだとか言い張っていましたが、結局は嘘の皮がはがれて自供したそうです。警察ではあるまいし「自供」とはと思いましたが、「実はこれだけではなくサッカーやピアノ、公文などの習い事も長続きしないんです」と、彼女の話は延々と続きました。

 これまでこのお母さんは、息子さんが欲しいというものは親が教育上いいと判断して与えてきた。我慢する心を養えと教わったのでそのとおりしてきたつもり。小遣いも適当に与えている。習い事も本人がやりたいというから納得してやっているとまるで絵に書いたような理想の教育論をさも「私は悪くない」と言わんばかりのお話でした。また旦那さんに相談したところ「子育てはお前に任せている。お前がしっかりしないから」というのだそうです。さてこんな相談を受けたらあなただったらどんな解決策を助言してあげられますか。

 私はまずお母さんが家計簿をつけていることを褒めてあげました。今時の若い人で家計簿をつけているなんて立派です。結果的に財布から2千円が無くなった事実を見つけたのはこの財布だし、近所のお店で息子さんが千円で2回も買い物をしたことを聞きだす勇気を持てたのも家計簿の存在だったのです。親の金遣いがあやふやだと子どもの金遣いもあやふやになります。このことだけは100点満点の母親なのです。

 しかし問題はここからです。親が教育上いいと思うものは必ずしも子どもにとっていいものとは限らないのです。子どもは家庭以外にも学校や社会に多くの接点を持っています。特に友だちの存在は「欲しいもの」がどんどん増えてくるのです。カードゲームや漫画など教育上好ましくないと親が判断するものでも子ども世界では貴重な情報源で、自分だけが知らない世界にいることの不安や知らないといじめに会うことが、「欲しい」という願望を倍化させ、親から貰う小遣いで果たせなかった夢を母親の財布から千円抜き取ることで満たしたのです。最初の千円でばれなかった快感は次の千円へと発展したのでしょう。でもお店で息子さんと偶然巡り会ったことや家計簿の存在が、息子さんに「お金を取ることはいけない。世の中はそんなに甘くない」ということを知らせることができました。大人は我慢ができますが子どもの我慢にも限界があることを知らなければなりません。また家庭教育学級などでの子育て学習は「教育的にこうあるべきだ」とか、「我慢する子どもに育てる」など画一的な教え方をしますが、子どもは100人100様どの子も違うのです。

 子育ての悩みは子どもが成長するにしたがって、大きくて深くなりどんどん目の前に現れてきます。大切なことは子どものシグナルをしっかりととらえ、ともに悩みともに解決して学習姿勢だと思います。怒るのではなく時には叱ることも大切ですが、「お母さん御免ね。お母さんが悲しむようなことはもうせんから」と反省の言葉がでるような諭をしたいものです。

 でも「子育てはお前に任せている」という旦那には困ったものです。このことがいかに重要な夫婦や家族の問題であるか説得してテーブルについて解決に向けた協働の力にしなければなりません。

 先日、元気よく親子で歩いているあのお母さんの姿を見ました。「若松さん先日はいいご助言ありがとうございました。お陰様で旦那もこのことを理解してくれたようです」と笑顔で声を掛け去って行きました。多分第一の峠を越えたのでしょう。次はどんな峠が待っているのでしょう。

  「子育ての 悩みは深し お母さん 家計簿付けて 百点満点」

  「財布から お金盗んで 大目玉 暗い押入れ 母の厳しさ」

  「誰にでも一つや二つは あるものよ 善人顔して 生きていてても」

  「任してる こんな言葉で 逃げる親 いいことだけは 俺に似てると」


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