○思わぬコーヒー騒動
私は何故かコーヒーが苦手で飲めません。ゆえに最近は何処へ行っても食後にまでコーヒーが出るものですから、少し早目にいちいち相手に「私はコーヒーが飲めませんので・・・」と断りの一言を言わなければなら何のです。でないと勝手にコーヒーが出てせっかく入れてもらったコーヒーが台無しになってしまうのです。
昨日もある知人の家へ出かけました。愛想よく迎えてくれた奥さんは早速厨房に入って、何やらガチャガチャと音を立てていることが聞こえてきました。「これはひょっとしたらコーヒーでも出すのでは」と察知したものですから、「奥さん私はコーヒーが飲めませんので」と聞こえるような声をかけました。案の定奥さんはコーヒーを入れる準備をしていたらしく、「そりゃあ残念ですね。美味しいコーヒーが手に入ったのでご馳走しようと思って」と残念がりました。一緒に行った仲間は「奥さん私はコーヒーが大好物なのでいただきます」と、私と同じような声をかけました。
こうして私にはお茶、仲間にはコーヒーと別々のものが出てきたのですが、何とお茶うけにコーヒーゼリーが出てきました。奥さんは「あら嫌だ。私としたことがコーヒーの嫌いな若松さんにコーヒーゼリーを出すなんて」と顔を赤らめて台所へコーヒーを下げ、変わって美味しい羊羹を出してくれたのです。その折下げようとしたコーヒーを台所に落としてコーヒーカップを割ってしまい、ちょっとしたハプニングとなりました。自慢のコーヒーカップだったのでしょうに、私は自分でコーヒーカップを割ってしまったような罪の意識に駆られました。相手の奥さんも言葉にこそ出しませんでしたが、自分の粗相や恥じらいで顔を赤く染めていたようです。
仕方がないと諦め用件を済ませて知人宅を出ましたが、後味の悪い結末でさてどうしたものか、同行の仲間に「悪かったなあ」と話しましたが、「余り気になさらない方が」と言いつつ、「私が近々コーヒーカップのいいのがあるのでお持ちしておきます」といいました。仲間はそれで株が上がりますがさて私はどうなるのだろうと考えると益々コーヒーの飲めない私は、「そうだ長男の嫁の実家が喫茶店なので美味しいコーヒーを持って行こう」と思ったのです。
日本人の暮らしはいつの頃から洋風になったのでしょう。少なくとも私が子どもの頃は和風でした。最初にコーヒーを飲んだ時、「こんな苦いものは飲めない」と吐き捨てました。以来断った一回の経験でコーヒーが嫌いになったのですから私も相当変わり者です。コーラを飲んだ時もマヨネーズを食べた時も同じで、未だにそれらを好きになれないのです。
魚と肉の消費量が逆転した日本、カーサンヤスメといわれるカレー、サンドイッチ、焼きめし、スープ、目玉焼きが大好きな子どもたちが増えて、ご飯に味噌汁、漬物に梅干しなどの日本食は家庭から姿を消しつつあるようです。私は日本茶が大好きで食事の後や三時のお茶うけに和菓子を食べながらお茶を飲むひと時は、何とも言えない安らぎを覚えるし、たまに抹茶を立てて飲むとこれまた詫び寂を感じます。
コーヒーの嫌いな私の、息子がどういう因果かコーヒー屋の娘と結婚したのですから何とも可笑しな話です。私は娘の実家が経営している喫茶店ではブラックならぬホワイト、つまりミルクで通しているのです。
「コーヒーを 駄目と断り ハプニング 俺のせいでは いや俺のせい」
「コーヒーが 嫌いな親父 知っていて コーヒー娘 嫁ぎくるとは」
「飯食った 後にコーヒー 飲む風潮 理解できぬが 今は常識」
「ペッ苦い たったこれだけ 嫌いなる 俺も相当 ええ加減だな」