○笑いの効果でお茶を濁す
最近笑いのある暮しが健康に良いと言われ始めています。確かに人間は泣いて暮らすよりは笑って暮らす方が楽しいし、家に病人がいるだけでも家の中が暗くなるのですから、努めて笑いを誘うような暮しがしてみたいと思っているのですが、現実はそうそう笑ってばかりもいられないのです。
ある友人から借金の依頼がありました。そんなに多い金額でもないので妻に相談して用立てることにしました。妻が言うのには「お金を借りる時は神様、返す時は悪魔みたいに思われるので、よくよく考えてお金は貸さないと」釘をさしました。というのも妻の実家は海産物屋をやっていて、妻が子どもの頃「印かずき」という連帯保証で財産が一変に吹き飛ぶほどの難儀をしたようです。その時以来金は「貸さない・借りない」を家訓にしたようです。確かにお金が欲しい時は藁おもすがる気持ちなので貸してくれる人は神様や仏様に見えるのです。しかし約束の期限を過ぎて取り立てられると貸してくれた恩など忘れて鬼にも蛇にも見えてくるのです。冷静に考えれば可笑しな話ですがこれが世の中というのでしょう。
妻が用意してくれたお金はさして多くはなかったため、借用書など必要ないとお金を渡す時私はええ格好をしました。しかしその人は律儀にも借用証を作成して郵送してくれました。借用書に書かれた返済の日などすっかり忘れていたのに、その日が近くなると相手から返済期日延期の電話が入りました。どうしても返済金額が揃わないというのです。私はこれまたええ格好をして「いいですよいつでも」と話し、相手も嬉しそうに電話を切りました。あれから何ヶ月か経ちました。昨日妻が「お父さんあの貸したお金はどうなったの?」と聞かれました。妻は自分の家計簿にちゃんとそのことを記入しているのです。「相手の都合もあって待って欲しい」そうだと、その場は逃れましたが、私も昨晩そのことが妙に気になり始めました。机の引き出しに入った郵便で送られてきた借用証を見るともうとっくに返済期限は過ぎているのです。
今朝朝ご飯を食べながら妻が、「お金は貸す時返らない、つまり差し上げたものくらいに思わないといけない。相手を憎むより、自分が貸す時にどんな態度で貸せばいいのか考えないといけない。多分貸したお金が返らないとその人との付き合いも終わるからね」とやんわりやんわり諭されました。耳の痛い話しながらさすが商業科を出ている妻の話は説得力があると、改めて妻を見直しました。
そのあと妻に新聞に出ている川柳の幾つかを読んで聞かせて笑いを誘い、お茶を濁すように濁ったお茶を飲みました。笑いはストレス発散作用、免疫機能改善効果、自律神経バランス調整作用、血糖値上昇予防、気分改善効果があるそうです。なるほど私は笑いを誘発する天才ではありませんが、私のやってる落語ならぬ落伍や、親父ギャグならぬ駄洒落もまんざら捨てたものではないと、人助け効果を自画自賛しました。降ってわいた借金の話も、妻に内緒にせずオープンにしていたからこそ笑い話になったのです。まああの借金の件は笑って終わりにしましょうか。
「借金は 借りる時には 神仏 返す時には 鬼か蛇か」
「何事も 自分で決めず 相談す 今度のことで 肝に命じる」
「食卓で 借金さえも 笑いネタ 笑いの効果 どれほどあるか?」
「ええ格好 し過ぎていつも 苦戦する お人よしとは 俺のことかも」