○論に負けても理に勝つ
私は若いころ、病気になったことが原因で転職を余儀なくされ、それまでやっていた漁師を断念して役場に勤めることになりました。若さにものを言わせて青年団活動に夢中になって夜更かしし、殆ど寝ないまま早朝に出漁するという寝不足と働き過ぎが原因で病気になったのです。役場に入った駆け出しのころは、青年団で培った実践と理論を武器に配属された公民館で、水を得た魚のように思う存分働きました。
しかし、世の中はそんなに甘くはなく、行く先々で自分の非力を認めざる得ないような出来事に出合いました。それでも一つ一つ、一年一年目の前のハエを追うがごとく努力した結果それなりの成果をお納め、県公連主事部会長になったり、青年の船班長としてアメリカに渡ったりしながら地道な努力を続けた結果、10年目に輝かしい全国表彰を勝ち得ることができたのです。
私が主事部会長をしていたころ県外研修という制度があって、県下の代表主事さんを引率して、武者修行の旅に出ました。向かった先は静岡県と埼玉県でした。そこで出会った静岡・埼玉の主事さんたちの理論は相当ハイレベルで全員がかかっていっても軽く転がされるほどの落差でした。その当時公民館の世界では東の静岡、西の愛媛と持て囃されていましたし、私たちもある意味胸を張っていたつもりでした。「行動こそ最大の武器」と思っていたのに、彼らは既に「理論と行動の一致」のレベルだったのです。鼻をへし折られた私は帰るとすぐに主事さんたちの頭脳改造に取り組み始めました。いわゆる理論武装です。
当時愛媛県には条例設置公民館が366館ありましたが、その全ての事業を経営評価することにして調査を試みることにしましたが、これは内容を明らかにされたくない現場の館長さんや主事さんの猛反対に遭いました。それでも説得し実行しました。その結果公民館の②学習や学びの援助事業は相当高いレベルにあったものの①問題を知らせ提起する事業や、③学習の組織化事業、④ボランティア事業などにおいて低いレベルであることが判明したのです。その結果を受け①、③、④の強化に取り組んだ結果、大きな成果を得たのでした。以来愛媛の公民館は理論においても他県に負けない自負が生まれましたが、逆に実践が弱くなるという方向に進んだことは皮肉なことでした。
理論と論理という言葉があります。理論も論理も同じように聞こえますが、理論は学びで得た知識です。論理は実践から生まれた知恵です。「論」と「理」はどちらがよいかは甲乙つけがたいのですが、私たち実践家から言わせれば、どんな学習から得た知識よりも実践から生まれた論理は勝てると信じているのです。「論に負けても理に勝つ」とはそのことだと思い、これからも実践に意を注ぎ、実践から生まれた論理をしっかりと積み重ねてゆきたいと思っています。
内よりも増して一番は論にも負けず理に勝つ」ような人間でありたちと思っています。
「論と理は どちらが勝つか 尋ねられ どちらも大事 両方目指す」
「実践で 言葉編み出す 生き方を 長年やって やっとここまで」
「世の中は 上には上の 人ありて 目指せど先は 果てなく続く」
「希望燃え やった昔が 懐かしい 幼稚だったが 仲間とともに」