○この身に付けているものなんぼ?
私の友人に木村君という人がいます。50歳も半ばの人に君付けは失礼かもしれませんが、私はあえて木村君と呼んでいます。彼と知り合ったのはフロンティア塾でのことでした。私たち21世紀えひめニューフロンティアグループが10年で40回を目指した塾に、彼は殆ど毎回足繁く通ってきました。他の人のように人との人間関係や学びを重視せず、もっぱら卓話や討議後の夜なべ談義に重きを置いた奇妙な行動は、際立っていただけに誰からも愛され、いつの間にかすっかり塾の人気者になっていました。彼を決定的に有名にしたのは仕事が車の修理工場を経営していることもあって赤いつなぎの作業服を着ており、その姿で何処へでも行くことから、「赤トンボの木村さん」なんて愛称もつけられていました。何せ赤いつなぎの作業服で結婚式や葬式まで参列参加するのですからその徹底振りは半端ではありませんでした。塾が終了してもう5年になりましが、彼はフロンティア塾で知り合った仲間とせっせと交流を続け、高知県の四万十マラソンや内海の歩き遍路にも参加するなど義理堅い行動をしており、立派と言う他はありません。
今日稲葉さんの結婚式で久しぶりに同席しました。懐かしい話に花を咲かせ一緒に酒宴に付き合いましたが、歌は歌う、酒は飲む、馬鹿騒ぎはするで、多いに結婚披露宴を盛り上げてくれました。最後は少し酩酊状態でしたが一緒の帰り道だったので同乗して家の近くまで送りました。途中酩酊と小便が重なり、信号待ちしている土手沿いの道で降り、平気で小便をするあたりさすが大物なのです。
ところで今日の結婚式に木村さんはスーツ姿で現れました。「おい赤いつなぎはどうした」とみんなに冷やかされていましたが、受付近くで一服しながら私に「スーツは窮屈で困る」と前置きし、「進ちゃんこのネクタイなんぼか分る」と唐突に言うのです。「さあ」ととぼけましたが木村君は「これダイソーで百円じゃった」というのです。「うそー」と言うと、追い討ちをかけるように「このワイシャツは300円、カフスボタンも100円じゃあ」と豪傑笑いでした。カフスボタンは買って付けようとするとワイシャツに穴が開いてないことに気付き、釘で開けようとしたのですが、釘が錆びていて、結局は諦めた」と笑い飛ばしました。一年に何回も着ないものにお金をかけるのは馬鹿げていると、合理主義者ぶりをアピールする彼の生き方も何処かで見習いたいものです。要は自分サイズで生きることなのです。
木村君からフロンティア塾の再会を懇願されました。フ「ロンティア塾に入るまでの自分は盃のような人間だった。フロンティア塾で多くの人を知り自分が丼までは行かなくても茶碗くらいになれた気がする」と述懐する彼の言葉は決してお世辞ではなく本心からの言葉だと思います。人間牧場が出来たら必ず塾を開くからと約束をして、酒の匂いぷんぷんの木村君を松前郵便局の近くで降ろしわが家へと向かいました。
「俺の身に 付けてるネクタイ 一万円 木村百円 見た目は変わらず」
「気にするな 背広良くても 値打ち別 人は見かけで 判断できぬぞ」
「お祝辞に ハーモニカ吹く 奇抜さが 受けて大きな 拍手ぱちぱち」
「隣席 座った人が 知っている 俺の名前と 俺の素性を」
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読ましてもらいました。読んでいると、何か、その状況が、目に浮かびます。フロンティア塾、懐かしいですね。初めて行った時、何がなんだかわからなかったけど、今、参加すると、もっと、くわしく、楽しく、できるとおもいます。でも、そのおかげで、今、お付き合いしてもらっている人がいるので、嬉しいですね。ありがとうございました。今晩は、木村さんと、朝まで飲みます。