shin-1さんの日記

○ 春の一日西

 私たちの地方には天気を現すことわざや言い伝えが沢山残っています。漁村であるが故の、また天気予報など発達していなかった時代が故のことだと思われますが、「板子一枚下地獄」といわれる海で働く人々にとってみれば、天気の目利きは何よりも大切な仕事だったのです。私はそんな漁村に育ったものですから、子どもの頃から大人の世界の天気に関することわざが自然と耳に入っていました。「平群島に雲がかかるとやまじ風が強い」とか、「お日様が高入りすると雨が近い」とか覚えているだけでも十本の指を軽く越えるほどです。お陰さまで教育委員会や産業課、企画調整室、地域振興課などを渡り歩いて各種のイベントを数多く手がけましたが、日和を見る名人として天気は天気の、雨は雨の対応をしてきました。

 今日は冬の季節風にも匹敵するような北西の大風が吹き荒れました。ここ数日地元では「やまぜを食う」と表現する南西の風が吹いていたので漁師さんは今日の北西の風を予測していたようです。それにしても強い風です。人間牧場で農作業をしていたのですが一日中この強い風に吹きさらされ、被っていた帽子を何度飛ばされたことでしょう。その都度拾いに行って被り直して作業をするのですが、時には下の畑まで飛ばされました。

 春になると冬の間吹いていた北西の季節風が止んで春の南よりの風に変わるのですが、時おり季節の変わり目でしょうかこんな北西の季節風が吹くのです。こちらではこの風のことを「春の一日西(ひしてにし)と呼んでいます。これほどの強風も長続きせず一日で終わるというのです。この言い伝えも殆ど当るのですから昔の人は偉いものです。

 やっと芽が出た木々たちも昨日まではつよいやまぜ(南風)にあおられ、今日はまた北西の強い風にあおられきっと驚いていることでしょう。

 「風土」という言葉があります。その土地の状態や気候、地味などの意味だと思うのですが、私流にいえば読んで字の如くその土地に吹く風だと思うのです。その地域には土地の条件によって一年中様々な風が吹き、その風を受けながら人間も自然も生かされて生きているのです。風は人々の暮らしにとって厄介者であると同時に恵みでもあるのです。その風の方向や強さをよみながら風とともに生きてきたのが人間の知恵となったのです。家の周りやみかん畑の周りに防風垣を廻らせたのも生活の知恵なのです。風土は時として風土病などという病気も起させます。その地域独特の水や食べ物が長い年月をかけて人々の体に影響し原因不明の病気に蝕まれたりすることもあるようです。

 漁師さんの予想やことわざが正しければ明日はこの季節風も収まるでしょう。

  「この風は 誰が吹かすか 知らねども 春の眠りを 起しやがって」

  「ひして西 漁師の言葉 信じれば 明日は収まり 漁に出るかも」

  「二度三度 帽子飛ばして 吹き抜ける この風俺に 何の恨みが」

  「一向に 温くならない 春日和 桜は遠に 散ったというのに」


 

 

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