〇心を磨く100の智恵・その8「決断は勢いで行わない」
【高揚しているときほど、他人への約束を安易にしてはならない。酔っているときほど、腹を立ててはならない。有頂天でいるときほど、四方八方に手を出してはならない。厭きたからといって、終わりを疎かにしてはならない】
人間には長い人生において幾つかの決断に迫られる時があります。若い頃なら決断の重みも案外軽く、たとえ決断して失敗してもやり直しができるのですが、決断には後に戻れない事だってあるのです。振り返ってみれば平凡な田舎に住む私の人生においても、転職の決断、退職の決断、方向転換の決断など幾つかの決断があったようです。決断とは二つの道の右か左か、また進むか引き返すかを決めることですから、判断を誤るととんでもない人生になっていたと思われますが、私の従兄弟で商工会長をした西下芳雄さんが「判断の基準は始める時は周りに相談、終る時は自分ひとりで決める」と教えられ、それを実行したお陰で判断ミスもなくここまで生きて繰られたのですから、この言葉は私にとって金言なのです。
例えば顔見知りのある人から「保証人になってくれないか」と頼まれます。その人と心許した深い関係であればあるほど頼みは断わりにくいのですが、印鑑を押すということがどういう意味を持っているのか考えなければ、とんでもない印鑑被きで、自分の財産はおろか自分の人生まで棒に振ってしまうのです。金を貸したり印鑑を押す時は神様のようにいうのに、返す時になると悪魔のように言われ、人間関係を損ねてしまうのです。約束する時ちょっと立ち止まり、家族や誰かに相談し客観的に判断してもらうことはとても大事なことなのです。妻の実家は海産物屋を営んでいますが、印かずきにあって財産の殆んどを失った苦い経験があるようです。
私は若い頃青年団活動をしました。ゆえに選挙がある度に町会議員や町長選挙に出ないかと誘いがありました。その時は酒の勢いもあり、俺もいよいよかと有頂天になっていました。妻にそのことを相談すると、「選挙に出る時は離婚してからにしてください」とばっさり切られ、説得する勇気もなく一度もその誘いに乗らなかったのです。お陰で地位や名誉を手にすることはできませんでした。私の友人たちは市町村長や議会議員に出馬し、地位と名声を持った人もいますが、中には落選して故郷を追われた人だって沢山いるのです。
酒は酔うためにあるものですが、酒の勢いは自分の判断を誤らせることが多いようです。「酔う」という字の右に卆という字があります。酒の卒とは使い走りのことだそうで、「卆=卒」は終わりという意味もあります。酒は時に品格も道理も失わせ、腹を立てて喧嘩をしたり、人の悪口を言ったり、時には取り返しのつかない誤った決断をしてしまうのです。
バブル全盛の頃、本業以外のことに四方八方手を出し、バブル崩壊で老舗といわれた屋台骨まで倒産に追い込まれた事例は枚挙に暇がありません。不易と流行という言葉がありますが、不易とは変わらないこと、変えてはならないこと、この本質が分からなければ本当の上司や経営者とは言えず、部下や社員を路頭に迷わせることになってしまうのです。
私もさすがにこの時期になると、色々なことに多少厭きてきましたが、厭きたからといって終わりを疎かにはできないと、自戒の念を含めて「最後は自分で決める」ことを肝に銘じている今日この頃です。
「決断を 勢い余って するなかれ 相談すれば 必ずいい智恵」
「右左 前か後ろか それぞれに 道を選んで ここまでやっと」
「酒に酔い 要らぬ失敗 したゆえに 酒をきっぱり 止めて元断つ」
「流行に 乗っていいこと 悪いこと 不易原則 いとも簡単」