○あなたは何語で夢を見ますか
私たちは自分の思いを言葉や文字に表現して生きています。それ以外にも心と頭の相関関係で色々なことを考えたり思ったりするのですが、それらは全て日本語という言語で表現するのです。
昨日他愛のない夢を見ました。私が見た夢の内容はかつてアメリカへ行った折、外国の友人となったアメリカ人との対話でした。ジョンという日系三世とともに青年の船に同乗したのはもう30年も前の出来事なのですが、以外や以外私もサンフランシスコの友人ジョンも、まるで若く当時のままの姿なのです。夢の中では私が日本語で喋ると彼もたどたどしい日本語で返してくれました。英語の話せない私が見た夢は勿論日本語なのですが、アメリカ人は何語で夢を見るのだろうかと、ふと思いました。
実はこの夢には伏線があって、青年の船に乗船したアメリカ人やメキシコ人、それに私たち日本人が、アメリカへ向かって走る日本丸の船内で「あなたは何語で夢を見ますか」というシンポジウムを開いていたのです。これももう30数年前の出来事なので全てを覚えてはいませんが、議論は白熱し殆どの人が自国語で夢を見ると答えました。しかし渉外という語学サービスのために乗船した日本人の仲間の中には時々英語の夢を見るという人もいました。話はとんでもない方向に進んで、「じゃあジョン万次郎は何語で夢を見たのか」という話に花が咲きました。ジョン万次郎は土佐清水出身の漁師でした。漁に出て難破し南鳥島まで流され、アメリカの捕鯨船に助けられ船長の手厚い知遇によって晩年は明治政府の役人となった歴史上の人物です。ジョン万次郎のことを知っている人は「望郷の念にかられ日本語で夢を見た」という人もいれば、「アメリカの暮しが長かったので英語の夢を見た」という人もいました。また「日本語と英語を夢の中でも使い分けたに違いない」とも意見が出ました。本人に効いたことがないので定かではありませんが、全て正しいのではないかと思うのです。
先日ある外出身のタレントが「私は日本に憧れ日本が大好きで、今も日本に住んでいる。日本の国籍も取得して一生涯日本に住みたいと思う。私は法律上は日本人になりきっているのですが、残念ながらいくら日本人になろうと努力しても、未だに夢は英語で見るのです。私は永久に真の日本人になれないかも知れない。」と少し寂しく語っていました。そんなものなのかなあと思いつつ、その外国人の話を興味深く聞かせてもらいました。何気ないことなのですが、夢の出所を聞いただけでも国を愛する気持ちに微妙な影を落としていることに気がつくのです。
ふとわが町からオーストリア・ウイーンの日本人学校に、この春赴任していった中尾治司先生の事を思い出しました。先生は多分確実にウイーンで見る夢は日本語だろうなあと思いつつ、ひょっとしたら帰る頃にはドイツ語の夢を見れるまで進化するのではないかと思ったりしました。早速インターネットでこの議論もしてみたいと思っていますが、一緒に旅立った息子さんや娘さんはどのような夢を見るのか今から楽しみです。
「俺はなあ 見る夢全て 日本語だ 字幕スーパー なくても分る」
「三十年 前の出来事 夢に出る 夢の中では 俺は若者」
「ジョン君に 会ってみたいな 今頃は 何処におわすか 便りも途絶え」
「日本語は 六十二年も 使ってる だから当然 見る夢全て」