〇ブンコを見ると血が騒ぐ
何もできない無能な人を、「無芸大食の大糞たれ」などと、田舎では汚い言葉で悪口を言いますが、私もそれに匹敵するほど無能無芸な男です。歌が上手に歌える訳でもなく、絵も書けず日曜大工なども余り得意な方ではないのです。親の血を引いたのだろうと思いきや、親父は器用で大工道具を持たせたら玄人はだしの仕事ができて、ひょっとして私は親父の子どもではないのかも知れないと、小さい頃には思ったほどでした。
その私がひょんなことから3年前ミツバチを飼い始め、今ではその虜になっているのですから世の中は分からないものです。ミツバチに詳しい西予市野村町山奥組の井上登さんに自分勝手に弟子入りして、最初2つから始めたニホンミツバチの巣箱を九州宮崎県の山ではブンコというのだそうですが、今ではそのブンコが8つまで増え、その内の7つまでにミツバチが入居して、ミツバチの飼育に現を抜かすほどではありませんが、妻が驚くほど夢中になっているのです。
師匠の井上登さんから、ミツバチは愛情があれば人を刺すことはないと教わり始めたものの、残念ながらミツバチに対する愛情不足で毎年4~5回は刺され、難儀をしていますが、これも修行と思って頑張っているのです。お陰様で初年度は4升、2年目の昨年度は3升7合のハチミツを採取して、ミツバチを飼っている人から羨ましがられていますが、今年は家の裏庭と人間牧場に越冬組みがいるので、それ以上の成果を期待しながら、毎日楽しみにブンコを眺めているのです。
幸いなことに裏山に置いたブンコのひとつは、わが書斎から観察が出来るような場所に設置しているため、朝起きて外が明るくなると気になって、朝の挨拶代わりに眺めているのです。わが家は代々漁師なので、風の人、海の人、狩人の地が流れているのか、ブンコを見ると血が騒ぐのです。毎朝自分で採集して息子が小瓶に小分けしてくれたハチミツを、パンに塗って妻と二人で食べるのですが、これがまた飛び切り美味しいご馳走なのです。
今年も師匠の指導を受けてハチミツの採集を梅雨明け頃に行いたちと密かに考えていますが、今年こそは愛情を持ってミツバチに接し、防備も完全にして刺されないよう細心の注意を払いたいと思っています。今年も既に一回薬指を刺されたので用心しなければなりません。
今のところブンコに出入りするミツバチの数も予想以上に多く、ブンコを見るともういても立ってもいられないのです。
「この三年 何度ミツバチ 刺されたか それでも果敢 養蜂楽し」
「生態を 知らぬがゆえに 魅力あり 甘さと危険 隣合わせて」
「今頃は ブンコの中で ブンブンと 羽音賑やか 蜂の巣作業」
「修行した お陰軒先 蜂球を 両手で救い ブンコに移す」