○個人情報
個人情報保護法という法律が出来てから色々と面倒なことが多くなりました。特に役所のガードが固くなり、余程のことがないと個人の情報は取れなくなってきました。私は昭和19年生まれですが、2年前還暦の同級会をしようと地元に残っている何人かが名簿の作成を始めました。役所にいる私にその名簿の作成の役割が割り当てられましたが、役所にいるが故にその名簿を調べることも取り出すことも出来ないのです。困ったので母校の中学校へ卒業生名簿をお願いしたのですが、これも個人情報保護法を理由に断られました。仕方がないので20年も前に同級会をした時の古い名簿を頼りに芋蔓を伝うが如き調査を始め、やっとその名簿を完成させたのです。私たちの同級生は田舎ゆえ2クラスで、苦労しても何とか名簿が出来ましたが、次の組も次の組も同じような苦労をしていました。同級会以外に使わないからと幾ら校長に伝えても、「あなたが教育長でも個人情報マニュアルに違反することは出来ません」と突っぱねられました。この校長は立派だと思いました。一つたがを外すと全てがただの板に帰るからです。でも教育長を辞めた今は「地元の同級会くらいに便宜を図るくらいはいいのではないか」と、個人的には思っています。先日も来年正月に同級会をしようとしている方から電話があり「学校も役場も教えてくれない。あなたの力で何とか」と言われましたが、丁重にお断りをしたした次第です。
最近は家の表札が消え始めました。これも世の中の流れでしょうか、地元の区長を今年の春まで2年間やっていましたが、知っているようで知らないもので、広報を配布するためや色々な調査のために300戸の町内を歩くのですが、表札も郵便受けにも名前がなく、ましてや電話番号簿にさえ登録していないので電話も出来ず困り果てたケースがいっぱいありました。もし今日突然地震があって家が倒壊したら安否はどうするのだろうと、区長としての責任にビクビクしたものでした。そんなことがないように市役所から自主防災組織を作るよう圧力がかかるのですが、役所からは個人情報をタテに寝たきりや一人暮らしの人の情報は得られないのです。都会ではこうした時代を背景に「個人情報より人間の安全」をテーマにした取組が始まっていますが、田舎の役所はそんなところまではまだ進んでいないのが実情です。
敬老会のシーズンがやって来ました。敬老会を開く場合には市役所から補助金が出ます。そのため準備をしようとするのですが、対象となる高齢者の名簿は75歳以上でいただきますが、私たちの地区では慣例として70歳からを対象としています。そのため70歳から74歳までの名簿が欲しいのですが、残念ながらその名簿は役所も出しませんから、組長さんに文句を言われながら調査するしかないのです。それも仕事だからと割り切れぬ気持ちで取り組みました。
一事が万事世の中は個人情報という言葉が独り歩きし、情報漏れの責任の追及から逃れるために関係する人々はガードを固くしています。でも少し変だと思います。学校の子供が体操服にゼッケンをと名前を大書しているのは常識の世界でした。ところがつい最近になってPTAではこれが問題となり、子どものゼッケンも個人情報という名の元に消え始めました。またPTA会員名簿もご法度となって消えつつあります。その一方で「若松進一」をヤフーで検索すると何と1000件を越える情報が乱れ飛んでいます。個人情報はどうなっているのでしょう。まるで迷路に入ったようです。
「情に竿さしゃ流される、とかくこの世は住みにくい」は夏目漱石の草枕の一説です。とかくこの世は住みにくいですね。
「名前消し ひっそり生きる 人ありて そのくせサービス 悪いと文句」
「還暦の 同窓会を する人の 苦労ありあり 名簿もらえず」
「まず人の 安全第一 考える 防災組織 名簿必要」
「PTA 何でも反対 ゼッケンを 体操服から 剥がし持ち去る」