○勘違いの間違い
地元の農協から講演を依頼されたのは2月頃でした。代表を務める清水さんは双海町の第1回海外派遣生としてアメリカへ行った方だし、私が教育委員会で社会教育をやっていた若かった頃、青年団長をした肝胆相照らす中なので無碍に断ることも出来ず渋々受けていました。正直言って地元での話は好きではありません。フィーリングがピッタリ合って参加者に受け入れられれば良いのですが、中には不満な人もあって必ず後であれこれといわれるのです。「5月15日は随分向こうだな」と自分に納得させていましたが、先方の都合で日程を変更して欲しいと一ヵ月後に連絡が入り、「一日繰り上げて欲しい」というのです。明くる日の水曜日は大学の講義日なので月曜だったらと、何のためらいもなく予定表の5月14日欄に「下灘園芸組合総会講演」と書き込みました。田舎のことなので公文書による講師依頼書もなくてっきり5月14日だと思っていました。そして一昨日午後3時に会場となっている下灘コミュニティセンターへ出かけました。会場周辺には130人も集まる予定ですから車の置き場もないだろうと予測して出かけたものの、駐車場はガラガラ、会場も散閑としていました。支所に勤める顔見知りの女性にそれとはなしに聞いてみましたが、「今日はそんな集会はありません」「組合が会場を借りているのは何日ですか」「5月16日です」「そうですか・・・・・・」でした。
私の完全な勘違いでした。「一日繰り上げる」という日本語を私は「一日前に持ってくると思ったのです」。その夜相手である清水さんに確認したところ完全に私の一人相撲でした。「繰り上げる」という言葉は数字の上では大きい方へ転じることですから16日で間違いないのですが、予定を繰り上げるというのは「早める」ことだと思いつつも、支所で恥をかき、清水さんに恥をかき、「それはななたが確認しないからだ」と妻からも相当文句を言われて一件落着しました。それでも間違いつつ相手に迷惑を掛けなかったことだけは救いでした。16日を17日に勘違いしていたらそれこそ大変なのです。
しかしここでまた小さな問題が発生しました。今日水曜日は大学の講義日です。講演が終わるのは午後5時です。下灘から車を走らせれば愛媛大学まで優に1時間半はかかるのです。伊予市から高速道路に乗ると便利なのですが、午後5時過ぎの松山インターチェンジ付近はかなりの混雑が予想され、間違いなく講義に遅刻するのです。大学に勤める娘婿にことの次第を説明し、若干時間が遅れる事を学生に伝えてもらうよう万全を期したのですが、今日は憂うつな一日になってしまいました。それでもこんな事にくじけず、こんな事のないよう肝に銘じながら今日一日を乗り切りたいと思っています。
昨日人間牧場へ行っていたら、お昼休みに地元の屋外有線放送が聞こえました。「明日は園芸組合の総会です。若松進一さんが講演します」と放送が流れびっくりしました。だまってこっそりと思っていたことが、ここまで大きくなっているなんて思っても見ませんでした。益々憂うつな気持ちになりました。
私はおっちょこちょいなのでしょう。時々こんなへまをやります。何年か前は和歌山県へ行く予定をすっかり忘れていました。朝早く和歌山県から電話があり、間違いに気付いた私は空港へ電話をしました。しかし残念ながら空いた席はなく満席との事、万事休すと思い電話を切ろとすると、「今キャンセルが一席でました」というのです。急いで身支度を整え僅か1時間という時間で自宅から空港まで突っ走って飛行機に乗り、伊丹に迎えに来てもらった担当者のお陰で和歌山の会場入りしたのが5分前、何食わぬ顔で90分の講演をこなし、再び元来た道を送ってもらって和歌山日帰りの講演旅行は何事もなかったように終わったのです。
勘違いによる間違いが多いのは歳のせいだけではありません。不注意なだけです。今日を迎えるために何度となく清水さんと打ち合わせをしたはずなのに、大切なことの確認が疎かになりました。
もう一度鍛えなおして励みたいと肝に銘じました。
「間違って 二日も前に 講演に 俺ってアホだ 誰もいないで」
「秘書もなく 自ら管理の 予定表 繰上げしたが 繰上げもせず」
「妻にさえ 馬鹿にされたる 失態を 学生たちに 何と侘びよか」
「二日分 講演料を 貰いたい そんな人には 半分十分」