○秋田の美味いものに舌鼓・秋田ルポ③
「秋田へ行ったら必ず食べてくるように」と出発を前に友人から言われたのは「ハタハタ」と「キリタンポ」でした。全国行脚を続けている私にとって旅先での美味しい食べ物に出会うことは人間との出会いと同じくらいこの上ない悦びの一つです。体の都合で酒を断っている私には残念かな北国の美味しいお酒には無縁で、相変わらずウーロン茶一辺倒なのですが、その分ウーロン茶が口の中で食事を味わう舌を研ぎ澄ませて、美食の味が寄り鮮明になるのですから不思議なものです。秋田で過ごしたのは2泊3日でしたが、1日目は住宅課の皆さんと、2日目はフォーラム関係者との食談で楽しいひと時を過ごさせてもらいました。
2日間で食べた美味しいもの、珍しいものは料理が運ばれて来る度に、「これは何々」と説明を受けて食べるのですが、箸を運ぶのが先でいちいちメモにも取れませんから、すっかり忘れてしまいました。でもその味はしっかり舌と腹が記憶ています。しかしどんなに美味しい料理でも、もし私がデジカメを持参していなかったら、これほど饒舌には表現できなかったでしょう。
まず食談には人ありです。四国愛媛の伊予弁を語る私にとって酒の深まりとともに湯水のように出てくる秋田弁は全てを理解することは出来ませんでしたが、熱く語る一言ひとことに納得しながら、盃を進める知人は何よりのご馳走でした。さらに寒さゆえ七輪で暖をとる温かさもご馳走なのです。出てきた幾つかの料理をご紹介しておきます。
(ハタハタの塩焼きです。写真に撮る前に既に箸を勧めていて、思わず我に帰って写真に収めました。私たちのところではさしずめキスの塩焼きって感じの食感でした。)
(ご存知キリタンポ鍋でした。秋田地鶏で出汁を出したキリタンポは熱々フーフー、やはり冬の寒い時期は北国の鍋にかぎります。空港で買い求め家で作って食べましたが、あの夜食べた濃厚な味とは少し違っていましたし、キリタンポもやはり本物にはかないませんでした。)
(刺身もかまくら風にアレンジして、何とも風流でした。魚も寒ブリや鮭など、冬の日本海がてんこ盛りで見た目に美しく箸をつけるのが勿体ない箱庭のような絵になる光景でした。)
(「いぶりがっこ」とは沢庵のスモークなのですが、いぶりやあぶりと書いた小鉢がソバをこねる塗りの器で出てきました。美味しい秋田の味でした。)
驚いたのは料理ばかりではありません。民芸調のこの店のトイレは一工夫が凝らされていました。「トイレの美しいお店は繁盛する」という言葉そのままに、この店の自慢は何といってもトイレです。トイレの壁には小さな木調額で昔懐かしい秋田界隈の写真がやたら張り出されているのです。小便をしながら思わずついつい見とれて長小便をしてしまう難点はありますが、それでもこれだけのこだわりはそうそうあるものではありません。
秋田杉の四角い杯と、秋田杉の四角い枡に地酒を並々と注いでくれる独特のもてなしも気に入り、飲むほどに酔うほどに冬の寒さを忘れさせてくれた秋田の夜でした。
2日目は出番のあった人と事務局のこじんまりした食暖でしたが、お店が変われば食べ物もまた違ったメニューで、名刺交換やまちづくりについての議論などいいお話でした。
「行ったなら ハタハタ食べて キリタンポ 知ったかぶりの 友人勧め」
「ご馳走は 料理に七輪 人の縁 外雪忘れ 夜はふけゆく」
「通訳が 欲しい会話の 秋田弁 飲めば飲むほど 分らぬままに」
「学校と 聞いた食べ物 ガッコとは 俺の耳には がっこう?と聞こえ」