○春を食べる
春になって野山には様々な山菜が顔を出すようになりました。折からの天候で東北では思わぬ雪が降り、暖冬で今年の営業を諦めかけていたスキー場が慌てて再オープンしたり、関ヶ原では雪のため東海道新幹線が徐行運転するなど、相変わらずの気象異変に国民は首をすぼめているようです。でも私たちのような四国に住む者にとっては寒いといっても氷点下以下に下がる訳でなく、暑いといっても沖縄ほどでない程々の気候ですから我慢しなければなりません。
昨日人間牧場へ行ってツワブキを獲ってきました。他所の地域では馴染みの少ないツワブキですが、私たちの町はツワブキの自生地で、その気になれば幾らでも獲ることができます。最近はその味を知ってる人が沢山やって来て、処かまわず獲って帰るのです。中にはツワブキの可憐な黄色い花を楽しむために公園に植えているものや、自家山菜として栽培しているものまで勝手に獲ってゆく不届き者もいてちょっとした騒動まであるようです。
この頃のツワブキは茶色の綿毛を被ったそれは可愛い姿をしています。親株に見守られるように生えているツワブキの子を抜き取って収穫するのですが、目ざとい人は片っ端から獲って帰るので、後追いに回ると中々収穫ができないのです。それでも何本かのツワブキを自宅に持ち帰り、新聞紙を広げて剥き始めるのですが、皮を剥く作業がまた一苦労で、ツワブキの灰汁で指先はニコチンが吹いたような汚さになります。最近はナイロンの薄い手袋が出回って手袋さえすれば指を汚さなくて済みますし、指に食酢をつけながら剥くとまるで裏技のように綺麗に灰汁が取れるようです。剥いたツワブキは水に晒して灰汁を取り軽く茹でて更に水に晒し、煮付けの魚などと一緒に煮付けるのです。ほんのり苦いその食感はまさに春の味でお酒などにも良く合う食べ物なのです。
シーサイド公園の特産品センターには皮を剥いたツワブキが小さな袋に小分けされて200円程度で販売されており、手間暇かけずに春を味わうことが出来るし、ツクシやタラの芽も同時に買い求められます。間もなくするとワラビやゼンマイ、筍やイタドリも出て春の旬を思う存分味わうことが出来るのです。こうした山菜の数々は子どもの頃は灰汁が強くて口に合わず殆ど食べなかった嫌いな食べ物でしたが、やはり歳のせいでしょうか、山菜の味が分るようになって来ました。
山菜と並んでわが町は海の町なので海の幸が沢山味わえます。海岸に下りて少し大きめの石をひっくり返せばニナという小さな貝が取れます。長靴と軍手の出で立ちで磯遊びをするのもこれからの楽しみです。獲ったニナは一日だけ塩水につけて砂を吐かせ、茹でにして爪楊枝で抜きながら食べるのです。ビールのつまみに最適でほんのり苦い食感もやはり春ならではの味なのです。少し深い水辺を歩けばワカメやヒジキも獲れますが、特にこの頃のワカメは柔らかく、茶色の海草が熱湯の中に入れるとまるでリトマス試験紙のように深い緑色に大変身するのです。ワカメの刺身もおつな物で、プーンと磯の香りが漂ってきます。
昨日は魚編に春と書いて鰆と呼ぶ鰆の刺身を食べました。まるでトロのように口いっぱいにとろけます。まさに春、春、春のこの頃です。忙しい日々に変わりはありませんが、それでも2年前までの勤めていた時代とは違って私は現在自由人です。季節を楽しみ、季節を食べ、季節の中に身を置いて生きている実感をしみじみと噛みしめています。自由人っていいなあー。
「分け入りて 綿毛被りし ツワブキを 御免なさいと 二三引き抜く」
「そんな手も 灰汁が付いたら 大変と 手袋はめて ツワの皮剥く」
「食卓に ツワブキワカメ 春姿 湯気の向こうに 美人の?妻が」
「裏山の 日毎濃くなる 春の色 百合根緑葉 大きく伸びて」