○大根が食べたい
わが家の家庭菜園から白菜と並んで冬野菜の王様といわれる大根がついに姿を消しました。初秋に蒔いた種が芽吹き、晩秋から初冬にかけて食べ始めた大根は、春になると首を切られてトウが立つのを防いでいましたが、それでも大根はどっこい生きていて、脇芽から白い花が咲いたので、あえなく抜き取り処分されたのです。それでも昨年末に漬けた沢庵だけはその名残の酸っぱさを残して古漬け沢庵として塩抜きして味噌漬けや炒め物にしたりして食べられているのです。それも底をついたと思われる昨日、食卓に目にも鮮やかな瑞々しい沢庵が登場しました。今は四季を通じ大根だろうと白菜だろうと幾らでも売られているのです。多分中国か韓国産なのでしょうが、包装がなくなると何処の産地のものかはまったく分からず食べているのです。
「お父さん。沢庵はどうして大根漬けと言わず沢庵というの」と、妻が唐突な質問を知識人の私?にするのです。妻は沢庵和尚の名前にちなみ沢庵とつけたくらいな知識は持ち合わせているので、いわば意地の悪い質問なのです。ご存知沢庵和尚は江戸時代初期の品川に東海寺を建てた名僧なのですが、それだけかと分厚い広辞苑を開いて虫眼鏡で小さい文字を拾い読みしました。「たくあん」という欄には、「沢庵とは漬物の一種で干した大根を糠と食塩で漬け重石で押したもの」という説明の後に、名前の由来も記されていました。ここでは沢庵和尚が初めた作ったという説と「貯え漬け」が転じたという説の両方が書かれています。
その昔、三代将軍徳川家光が品川東海寺を訪れた時、沢庵和尚が「貯え漬け」ですと差し出したところ、家光が「これは貯え漬けでなく沢庵漬け」だという話は昔聞いたことがあります。「貯え漬け」は平安時代から日本の食文化としてあったのですから沢庵和尚が発明したのではなく、家光が命名したというのが正しい説明かもしれません。
最近の沢庵は大根そのままの瑞々しさを漬け込んで浅漬け風に仕上げていますが、昔は保存食だったものですから噛み切れないほど干して漬け込んでいました。これも広辞苑の沢庵説明だと干しもせず糠も食塩も使わず重石もしないのですから正式には沢庵と言えるかどうかは分らないのです。
大根は沢庵以外にもすり大根やおでん、刺身のつまとしても重宝がられますが、最近若者の間で人気なのは大根サラダにしてドレッシングで食べてるようです。それでもやはり旬の大根のような美味しさは残念ながら味わうことは出来ません。今年の晩秋頃までその味はお預けです。
「俺の名は 別名大根 心と書く 葉より隠れ根 本当の値打ち」
「大根が 食いたくなって 店で買う こんな大根 何処で作るの」
「物知りの 俺に質問 妻試す 知り抜けごぼう いや大根だ」
「さしあたり 俺が刺身で 妻つまか 二人で一緒 盛られ美し」