○酒に音楽
酒に音楽といえば殆どの人が酒を飲みながら音楽を楽しむことを連想するでしょうが、今日は酒の発酵に音楽を聞かせると言うお話です。今晩八幡浜の梅美人という銘柄の蔵元さんの酒蔵で酒宴が催されました。酒宴といってもその目的は酒蔵で酒を楽しみながら交流するという一風変わった会合です。仕込み用の大きな樽の蓋を利用したにわか設えのテーブルを囲んで酒瓶箱の上に腰掛けるといういたってシンプルなものです。でも料理は皿鉢料理に、蔵の珍しい酒がふんだんに並ぶとあって、酒通には堪えられないしつらえで、酒宴が始まりと今日の会合の目的なんかそっちのけでメートルを上げる人もいるほどでした。
そもそも今日の集会はえひめ地域政策研究センターの主催する地域づくりコーディネーター養成講座の修了生がセンターの肝いりで始めたパソコンネットワークの呼びかけで企画されました。その講師を務めた岡崎さんや私たちもそのパソコンネットに参加させて貰っているのでお誘いに応じたのです。
酒蔵の魅力は何といっても時代を超えた古風な歴史です。そして蔵を時空を越えて守り育ててきた蔵人の心意気、それに人の技で作られた酒の味です。これらが3拍子揃えば言うことはないのですが、昨今の日本酒業界はワインやビール、それに焼酎に押されて右肩下がりです。私の町の屋台骨のように街の中心にでんと座ってる酒蔵でさえ斜陽化の波に押し切られ、ついに酒造りを止めようとしているのです。残念でなりませんし、この酒蔵の持つ文化性をどうやって地域が理解すればよいのか、途方にくれるのが正直な気持ちでしょう。酒を飲まなくなった。酒が売れない。酒が売れないから作らない。酒が売れないのはワインやビールのせいだ。なんて言っても何の解決にもならないのです。
そんな不況風が吹き荒れる中でも酒が売れている蔵元もあるようです。梅美人さんの諸施設は文化庁の指定文化財に登録されています。煙突も酒蔵も、本宅もその殆どが文化財なのです。そんな酒蔵に大きなホーロータンクが幾つも置かれている大きな部屋がありますが、その酒に最近はオペラのようなバリトンの音楽を聴かせています。酒の酵母は生き物ですから、その高低音声波長が酒に反応し美味しい酒ができるというのです。「本当に酒に音楽を聞かせたら美味しい酒になりますか」と尋ねたら社長は「今のところ音楽と酒の因果関係は科学的には説明ができません。でも音楽を聴かせた酒はまろやかになる」というのですから驚きです。その酒をみんな美味しいと言って飲んでいました。多分彼らの舌では分るはずがありません。サントリーレッドの安いウイスキーをオールドパーの瓶に入れて飲ませれば、美味しいという集団ですからね。この酒蔵で音楽会、この酒蔵で人形浄瑠璃と次々にアイディアが出てきました。でもそこで終わるのが普通ですが、この会はせめて一つでも実行に移したいものです。
私は請われるままにハーモニカで5曲吹きました。多分私のハーモニカを聞いた酒樽では美味しい酒ができることでしょう。
「仕込み酒 音楽聴いて いい酒に 私も聴いて いい人になる」
「この家に 住み着く酵母 目に見えず 長い年月 この蔵守る」
「蔵人は どこか気品が 漂って 言葉一つに 歴史の重み」
「酒の元 井戸水飲んで 酔うたふり ハーモニカ吹き 得意満面」