○大学見つかる
二宮金次郎の銅像は日本全国の学校に今でも多く建っていますが、私が質問した限りでは二宮金次郎が左手に持っている本の中身が何であるか、知っている人は少ないようです。ある人は「修身」や「論語」などと言う人もいますが、中身は中国の古書「大学」の一節なのです。
昨日私は尼崎市で開かれた研修会に講師として招かれましたが、講演が終わって大阪に出て、梅田の駅近くにある古本屋通りを時間つぶしに歩いていました。さすが大阪古本といってもグレードの高い本が店先から奥までぎっしりと積まれた店がズラリと並んでいました。とある一軒の店に入り、無造作に置かれている古本の山の中に、これまた古くなってノジの抜いた一冊の本が目に留まったのです。柿渋を塗った表紙を開けてみると何とこれが捜し求めていた「大学」だったのです。
明治41年に出版されたその本は薄っぺらい和紙の袋綴じで多分版木印刷されたもののようでした。全部で15ページ程度の本ですが、凡人の私には漢字ばかりで読めないため意味さえも分からないのです。しかし二宮金次郎が読んでいる「一家仁一國興仁一家譲一國興譲一人貪戻一國作乱其機如此」という箇所は確かに9ページに載っているのです。少しばかりでしたが私は身震いするのを覚えました。
早速店番のお姉さんに「これ幾らする」のと尋ねました。「社長があいにく留守をしているんで分かりません」というのです。「お客さん幾らだったら買うんですか」と逆に尋ねられたので、「そうですね古いのは古いんですがノジが抜いて紙切れ同然で判読も難しいので千円以下じゃないですか」と切り出しました。骨董的価値からすると5千円くらいはするだろうなと思いつつ、「いいですよ。じゃあはるばる四国から来られているので700円に負けときましょう」で商談成立と相成りました。「お客さんもお若いのにこんな趣味があるのですか」などとお世辞を言うお姉さんと、口相撲をとりながら「社長が帰ったらどうしよう」と内心「シメタ」と思いながら、千円札を出して300円のおつりを頂き店を後にしました。
それからの旅は言うに及ばずこの古い大学の本と首っ丈、近所にいる人が物珍しそうに見たのも無理はありませんでした。安い買い物をしたものです。社長さんが帰って報告したら多分叱られたに違いありません。でも私は合意の基にかったのですから、ホルエモンみたいに捕まったり罰せられたりすることはないのです。
「長年の夢がかなって見つけたり大学古書がたった700円」
「ノジ抜きしカビの匂いの大学を誰が持ちしか思いを馳せる」
「間抜けなり店番姉さん俺に惚れ大学売ってまだにお釣を」
「行燈の灯り頼りに読んだ人今はあの世で俺の来る待つ」