○土の香り
今年の冬は寒波が度々やって来て、新潟県津南町では3メートルを超える積雪だと報じられています。綿のようにふわふわした雪も積もって水分を含むととんでもないような重さになって屋根を押しつぶし、尊い人命が50人を超えて奪われたといいますからただ事ではありません。特に独居高齢者の家では雪かきもままならず、苦悩の色がありありで正月早々暗い影を投げかけています。
今日は人間牧場の畑を耕しに出かけました。南国四国だというのに日の当らない畑の影には白い雪が申し訳なさそうに残っていましたが、春の植え付けの準備のために土を地掘り鍬で掘り返し、根や雑草を取るのです。勢いを込めて土に挑むのですがいかんせん体力の落ちたこの腕ではカズラの根などそう簡単には掘り起せないのです。それでも急斜面の畑を少しずつ少しずつ焦らず掘り進んで行きました。
北国は地面など見えぬほど雪が積もっているのに私の畑は黒々とした土がどんどん出てきます。山百合の球根などはもう春の芽吹きの準備なのでしょうか少し赤くなった芽が出ていました。
土の匂いは何ともいいものです。鍬で掘り起こす度にプーンと匂ってくるのです。「どんな匂い?」って言われても土の匂いは表現が難しく、結局は「土の匂い」としか表現できないようです。
時折粉雪舞うあいにくの天気で、地下足袋からは冷たさが体に伝わり、途中で止めようと思いましたが、身体はポカポカとして汗ばむほどでした。寒い冬はコタツやストーブの番をするより、やはい戸外で身体を動かす方が気持ちがいいものです。軽い昼食をはさんで4時まで作業をしたお陰で、狭い段々畑2枚が綺麗になりました。この分だと春の作付けまでには何とか間に合いそうです。
畑を耕しながらふと沖合いに浮かぶ周防大島辺りに目をやりました。今日の大島は海を渡る雪雲にさえぎられてかすんで見えましたが、あの大島で民俗学者宮本常一はどんな気持ちで畑を耕したのだろうと思いました。農作業の基本である土を耕しながら何かを感じたに違いありません。日本のこと、島のこと、自分のこと、将来のことなど、色々なことが頭をよぎりました。
「鍬打ちて荒れた畑を耕しぬあれこれこれ思いつひいふうみいよ」
「冬眠の蛙ミミズが迷惑と言わんばかりに土の中から」
「修養と思えば鍬も軽々と二枚の畑新地のように」
「冷たさが履いた地下足袋襲い来る小雪舞い散る段々畑で」