shin-1さんの日記

○禿か白髪かどっちを選ぶ

 「あなたの髪は黒々してますが染めているんですか」とよく聞かれます。「いいえこれ生まれたままですよ」「へーお若いですねえ。羨ましい」なんて会話が弾むのも無理はありません。還暦を過ぎたこの歳になると殆どの人が禿か白髪になるのです。事実私の仲間たちや周りの同じ年代の人は、白髪が進んで染めてみたり、中には頭にアデランスなるものを被せてカモフラージュしている人もかなりいるようです。

 酒宴の席で「禿がよいか白髪がよいか」と訳も分からぬばか話に花が咲きました。最後はいずれも嫌で生まれたままの黒々フサフサがいいというみんなの意見一致を見ましたが、その中の禿た人が神妙な顔つきで若い頃の思い出を話してくれました。彼は若いごろから若禿に悩まされ、「このままでは一生独身で終わるのでは」と結婚話がある度に悩み苦しんだそうです。でも「禿が何よ」といった素敵な奥さんと巡り会い、それからは禿のことなどむしろ笑いのネタにして人生を過ごしてきたと話してくれました。

 彼は驚くなかれ「禿の哲学」なる本に出会い、「禿のことなら任せて」というくらい禿の勉強をしていました。彼の禿論によると両側進行型、前方後退型、後方拡散型など禿にも色々なタイプがあって、電車に乗って周りの人の禿具合を自分と比較しながら観察すると、中々面白いとユーモアを交えて話すのです。禿の悩みを笑いのネタにする彼の生き方に大いに共鳴をしました。

 一方白髪になった仲間は、禿の仲間の笑いに負けじと思い出話を話してくれました。子どもを連れて保育園へ行った時、保母さんから「まあ若いおじいちゃん。お孫さんですか」と言われ相当ショックを受け、その足で美容院に行って白髪を染めたと言うのです。以来最近までずっと染め続け、その「白髪頭への投資額は相当なもんだ」と威張ってみせました。一度は自分で染めて原液の量を間違え、顔や体中に湿疹ができたこともあったと述懐しました。でも今は「シルクヘアー」などと冗談がいえるようになったそうです。

 幸せにも髪の悩みに出会わなかった私たちは、やれ禿だのやれ白髪だのと人の苦しみも知らず笑っていましたが、人には言うにいわれる身体的苦しみがあるのです。近頃私も頭に少しずつ白髪が見え始め、鏡を見るたびに「おー、少し貫禄ができたか」と思うようになりました。自分自身の髪に白髪が増えた妻は「そろそろ栗色に染めようかしら」と言いますが、私は「そのままがいい」と言っています。

 「禿の哲学」か「白髪の哲学」か、どっちの料理ショーではありませんが、どっちも素敵な友達の話でした。

 

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