shin-1さんの日記

○満が悪い

 私たちの町は漁村です。したがって漁村でしか分からない言葉が沢山あります。「満が悪い」という言葉も何気なく使っているのですが、「えっ、それどういう意味ですか?」と先日も町外の人に訊ね帰されました。

満とは運のようなもので満を運に置き換えるといいかも知れません。漁師さんがその日の漁が上手く行かず不漁の上網を破り機械まで故障した場合などは、「満糞が悪い」と満に糞までつける有様で少々下品な言葉になってしまいます。

 昨日人間牧場で作業をしていると顔見知りのおばちゃんに会いました。おばちゃんは88歳、私の親父と同い年です。「親父さんは元気ですか」と会話も弾みましたが、結局は「歳をとって体の衰えが目立ちつまらない」と嘆き節でした。また一人身の家が増えたことを嘆き「この集落は10年後空き家が目立つようになる」と将来の予測まで話してくれました。

 「ところで私の同級生のAさんは元気じゃろうか」と尋ねてみました。「元気なのは元気なのじゃが、あの人も満が悪いねえ」と言うのです。おばちゃんの話によるとAさんの奥さんは年末に腹がうずき病院に行ったところ膵臓が悪いと診断されどうも重い病気らしい」というのです。Aさんは農業高校を卒業後家業の農業を継いでいましたが、折からのみかん暴落のあおりを受けて農業を妻に任せてサラリーマンになりました。穏やかな物腰で地元の信望も厚く消防団や公民館活動にも協力的で消防団では幹部にまでなりました。Aさんには障害を持った妹がいます。お母さんも今は寝たきりだそうです。私より早めの55歳で退職し、農業をやっていますが、奥さんが病気となるとこれまた大変です。おばちゃんの「満が悪い」という言葉があったので人間牧場からの帰り道、少し遠回りをしてAさんの家へ立ち寄ってみました。あいにく留守で逢うことが出来なかったのですが、早く奥さんの病気が快方に向かい元気で暮らして欲しいと願っています。

 60の坂を越えると何があっても不思議ではありません。親父も一応元気、妻も元気、子供たちもそれぞれの道を進んでいます。何気ない暮らしの中に「満の良さ」を感じなければバチが当ります。「満は運」といいましたが、「満」も「運」も努力なしでは勝ち得ません。でも努力しても「満」や「運」に見放されることだってあるのです。そんな場合は襲い来る「満」や「運」を嵐だと思ってじっと嵐の過ぎるのを待つしか方法はないのです。でもあらかじめ嵐に備えることも大事でしょう。今全国では何時来るか分からぬ南海地震への対応が話題になっています。少しだけでも備えの心を持ち、少しだけ備えの行動をしたいものです。

  「満悪いそう思ってたわが人生実は努力が足りないだけだ」

  「一十百千満全て悪くないせめて一つに望み託して」

  「満求め海にお神酒を捧げたる鉢巻漁師祈りの朝に」

  「満を持し建国二百のアメリカへ旅立つあの日懐かしからん」

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