○株価が下がっても株で儲けるうまい話
「若松さんですか。いい商品があるのですが少しだけお話を聞いてください」と、どこでどう調べたのか縁もゆかりもない私に、相手は饒舌な話を電話の向こうで話し始めました。話を断る隙もないようなその話はどうやら株売買の話でした。本当は直ぐにでも電話を切りたかったのですが、愛媛県金融広報委員会の金融広報アドバイザーをしている私としては、願ってもないチャンスだと、まるで相手の話にのめりこむようなふりをして、株の売買は一度きりしかやったことがないのに初めてのような顔をして色々と尋ねてみました。
「株式の信用取引は買って売るだけでなく、売って買うことだってできるんですよ」と饒舌な話はますますエスカレートしてきました。実際に株を持っていなくても、株の権利を売ったことにして後日買戻し、差額を精算仕組みがあるようで、株価が下がり続けている今でも利益が出るのだと強調されました。
「たとえば10万円の株を1株売ったことにして、後日買い戻す取引をすれば8万円に下がった時に買い戻すと2万円も利益が出るのですから、これはもう止められません。株価が下がったと嘆く人は多いのですが、その人たちはこのシステムを知らない無知な人なのです」と心を揺さぶってきました。
私はいろいろ話を聞いたその後に、「それはいい話ですね。知りませんでした」と驚きを見せ、「それじゃあ株がたとえば12万円に上がると2万円損ではないですか?」と少し突っ込めば、「その時はプロの私が早めに情報を入れてあげますから大丈夫です」とガードの強さを強調して見せました。
いつだったか、金融広報委員会から送られてきた資料の中に似たような話が記載されていたのを読んだことがあるし、ある条件を満たせなかった場合、投じた資産をすべて薄菜うことになる「カバーワラント」という言葉も知っていたので、もうそろそろ種明かしをと思い、「実は私は金融広報アドバイザーなんですが、カバーワラントという言葉をご存知ですか」と問いかけると、「なんだ、専門家ですか。お人が悪い」と笑っていました。
悪徳商法も金融商法も、私のような貧乏人の「もっと金を増やしたい」「お金持ちになりたい」という願望を持った人が引っかかることが多いようです。無理もありません。私たち貧乏人の最大の願望は命よりお金なのですから・・・・・(笑い)。でもすべからく「うまい話には必ずリスクが付きまとう」ということを肝に銘じなければならないのです。私の友人に株で大損をした人がいます。最後はそのことが起因したのか病気になって今もひっそりと生きていますが、私と同じような年代なのに私より老けて見えて正気が感じられないのです。奥さんも仕方がないと諦めているようですが、老い先のことを思うと不安だと述懐していました。
そこへ行くと私の妻などは、私が先物取引や株式などに手を出さなかったため、大儲けはしませんでしたがまあ何とか将来への不安もなく生きれるのですから、いい主人を持ったと思ってもらわなければなりません。
電話の相手は「株価のプロ」という言葉を盛んに使って私を信用させようとしました。「プロなら大丈夫」という安心感で私の心の中にどんどん入ってきましたが、「そんなに儲けるのだったら、あなたが投資したらどうですか」と
問いかけると、「私たちは株のプロなので法律でできないことになっています」と、インサイダーなどという言葉を持ち出してお茶を濁し電話を切りました。
「金欲しい 人に見えるか 俺のこと 電話でうまい 儲け話を」
「株式で そんなに儲ける 話なら あなたがしたら それはできない?」
「いつの世も お金は欲しい 人ばかり 失敗話 落語のネタに」
「騙された ふりして電話 聞き入りて お陰随分 知識習得」