○東予地方ニューツーリズム現地調査③
伯方島を訪ねる
岩城島や弓削島に行くには、今治から高速船に乗る方法と、しまなみ海道を渡って先回りするように伯方島の木浦港まで船で行き、同じ船に乗船する方法があります。直接今治から船に乗る方法と橋を渡って船に乗る方法とを比較して金銭的に有利な方法を選ぶのでしょうが、世の中はスピードの時代ゆえに先回り利用が多いようです。そのためでしょうが、久しぶりに訪れた木浦港の駐車場は人影もまばらなのにやけに駐車の車が多かったようです。私たちも今回はそんな行程を選び、ひとまず弓削まで行って帰りに岩城島、伯方島とニューツーリズム現地調査の所用をすませながら最終の目的地伯方島を車で訪ねました。
最初に訪れたのは「ファームインポーチュラカ」という農家民宿でした。しまなみグリーンツーリズム推進協議会の会長を務める西部知香さんの民宿を訪ねましたが、西部さんはあいにく塩づくりのプログラムをビーチの傍の公園でやっていて、そちらに移動して見学することになりました。西部さんとは昨年愛媛県で開催された全国地域づくり団体交流大会の分科会を開いてもらったので顔見知りでした。
しまなみ海道沿いには、瀬戸内海の温暖な気候を生かした塩づくりがかつては盛んで、流化式製塩場が沢山あったそうです。しかしイオン交換樹脂膜法という科学的な製塩方法が開発されてその姿を消してしまいましたが、西部さんたちは伯方の塩で有名な会社から塩分濃度の濃い塩水を分てもらい、素焼の土器を作る作業と合わせてメニュー化しているようで、短い作業工程で見事な塩づくりを再現していました。最近は全国的に塩づくりがブームで、特に海藻をくぐらせて作る藻塩は人気が高いようです。火を使うことさえ珍しくなったゆえに塩づくりの行程はニューツーリズムの新しい商品になるかもしれないようです。塩は万人の日々の暮らしに欠かせないものであり、出来上がった塩を使って竹筒で炊いたご飯をおにぎりにして試食したり、木なりの甘夏ミカンをジュースにして試飲したりして談笑しました。
続いて訪ねたのは野間征子さんが経営する農家民宿と農家レストランを兼ねた「有津っこ」でした。野間さんとも顔なじみで、色々なツーリズムにまつわる取り組みや苦労話を聞かせてもらいました。
野間さんの話を聞きながら、グリーンツーリズムのメッカ大分県安心院の中山ミヤ子さんのことを思い出しました。私たちはややもすると田舎の民家は古臭いと思っていても、都会に人にとっては非日常であり、田舎の衣食住の暮らしそのものの全てが異文化体験なのです。ましてやその日に食べる食材を裏の畑から自分で収穫してそれを料理に使うなどは考えもつかないことなのです。野間さんも最初はこんなもてなしでいいのだろうかと思って始めたようですが、今では海の近くの地の利を生かしたタコ釜めしが大人気で、多くの人を集めているようです。
ツーリズムは日常の暮らしや生産をちょっとした工夫でメニュー化して提供し、訪れた人に非日常を体験させながら感動を与え、いくらかのお金をいただく仕事です。薄利のため儲けの割には苦労も多いのですが、もてなし交流によって生まれる温かい心に触れながら次第にグレードをアップしていくのです。その意味あでは感性豊かな人の存在が欠かせないのです。「しまでcafe」の村上律子さんや兼頭一司さん、「でべそおばちゃんの店」の西村孝子さん、「ファームインポーチュラカ西部」の西部知香さん、「有津っこ」の野間征子さんはそれらの条件を満たした有能な人材なのです。彼や彼女たちはツーリズムに生きがいを感じ、さらなる発展を目指して様々な知恵を出そうとしています。またツーリズムに必要な情報の発信も公共の広報媒体を巧みに使いながらやっていました。
愛媛県の最北端ゆえに愛媛県側からみれば遠い位置にありますが、東京や広島には近く、しまなみ海道という主要アクセスを最大限に生かしていますが、ここでもやはり隣県とのネットワークや銃砲発信についてはまだまだ未知の部分があるようです。
ニューツーリズムは新しいビジネスです。足元にあるものを再発見して地域資源として活かし、そこから生まれる他地域の人との交流によって地域や人が心と経済で活性化するものです。これまで考えられなかった塩づくりなどの新しいメニューが人々の知恵によって生まれていますが、残念ながらまだその精度は高くありません。また市町村合併によって行政の支援も受けにくくなっているのも実情です。でも未開発ゆえの魅力も多分にあります。国民の観光への思考が変化している中で、それをキャッチして活用すれば地域の活性化は可能なのです。