○これは一体何
人間牧場の水平線の家に突如として現れた得体の知れないこの物体を見て、『これは何?」と首をかしげる人が何人もいます。ひどい人は「これはひょっとしたらオーム心理教の第一サティアンではないか」とも言います。天井からワイヤーで吊るした物体に蛇腹のパイプが装着しているのを見たら誰だってそう思うでしょう。実はこれは息子が友人の鉄工所の若社長の指導協力を得て密かに鉄工所で手作りしていた吸煙機なのです。吸煙機の下には畳一畳の大きな囲炉裏を切っていますが、普段は板間と同じフロアーにカモフラージュしているのですが、囲炉裏を使うときはここを開けて五徳を置き、食の煮炊きや焼き物を作り、その煙がこの大きな風洞を通って外に排気される仕組みになっています。
この変わった集煙機は常時取り付けではなく、電気チョッパーのスイッチを押すと驚くなかれ上がったり下がったりするのです。息子自慢の完璧な優れもののはずでした。でも頭では完璧な企画も機械のことですから人間の思うようには動いてくれず、微調整しなければ少し傾くようなのです。まあこれもご愛嬌なのでしょうがその内完成することでしょう。この物体を天井から吊るすことには私は最初反対でした。こんな重いものが何かの拍子で落下したら大変だと思ったからです。でも当の息子はいたって冷静で、そんな不安を他所にどんどんどんどん若いエネルギーを持ち込んでいます。「おいおい、この人間牧場のオーナーは私だぞ」と内心では思っていますが、息子もそこら辺はわきまえていて、自分の出費で賄っているようです。
それにしても若者の考えや行動は私たちのような古い人間には理解し難い感じがします。囲炉裏の設計も囲炉裏の耐火煉瓦も、囲炉裏の灰も、囲炉裏の五徳までもしっかりとオリジナルなものを自分で作ってしまうのです。そして仕事が終わってから私たちが休むであろう時間になって彼らは行動を起します。ですから親子と言いながら思考も行動もいつも歯車が狂ったままなのです。
息子は後ろに見えるストーブの横に釜戸を作る計画だそうです。今は作っの釜戸があるそうで、息子はインターネットで目ぼしい釜戸を探し当てているようなのです。これが出来るとこの部屋の土間で煮炊きも出来てこの上ないことには違いありませんが、私以上に夢を膨らませている息子に、妻は少し神経を尖らせています。私の懐具合が妖しくなっていることを薄々感じているのでしょう。オーナーの懐の次に狙われるのは妻の懐です。「住む訳じゃなし、これ以上のものは要らない」と反対する妻を無視して、私と息子は夢を語り合っています。
「サティアンと 見まがう程の 集煙機 息子手作り 成果はいかに」
「夢を追う 息子もやはり 私の子 妻の不安も 分かる気がする」
「友だちが 色々知恵を 出してくれ やっとここまで 未だ半分」
「金がない だけど知恵出し 汗を出し だから人生 楽しく生きる」