〇マッチ箱のような列車が走る風景
私が住んでいる双海町には、町の中心部に上灘川をまたぐように架かる長い鉄橋があります。市役所地域事務所裏の堰堤を含めると500メートルもあって、上灘保育園から潮風ふれあい公園へ通じる裏道から登る道から見える、町の中心部の光景はまさに絵になり、度々色々な資料の表紙に使われてきました。
最近は車社会となり列車に乗る人も少なくなったため、本数も少なく行き交う列車も朝夕の通勤通学時を除けば全て一両のワンマン列車ですが、ゆえに海沿いを長閑に走るローカル線として、度々旅番組などでも紹介されているのです。
わが家がこの地に引っ越してから40年余が経ちましたが、引っ越した当時はまだ周囲に家の数が少なかったため、鉄橋を渡る列車が一望でき、そのころは内山線が開通していない頃だったので、予讃線の本線として特急宇和海も走っていました。ゆえに4両仕立ての長めの列車が夜走る姿は、まるで列車が空中を走っているようで、「銀河鉄道」と勝手に呼んで、私の家の私設公民館煙会所の窓から、居ながらにしてその様子を楽しみながらみんなでお酒を飲んでいました。「まるで銀河鉄道みたい」と評した愛媛県副知事だった松友孟さんも既に他界し、一緒にお酒を飲んだ面々も老域に達しているようですが、思い出は時として蘇り、出合う度に「あの光景が忘れられない」と話すのです。
昨日の夕方、家の裏庭に登って蜜蜂の巣箱の手入れをしていると、ガタゴトと音を立てて鉄橋を渡る、一両の上り列車が目に留まりました。思わず持っていたデジカメで一枚撮りましたが、アップにすることができず、列車の姿は余り捉えることはできませんでした。多分あの列車は17時43分上灘駅発の松山行き上り各駅停車の普通列車だと思われます。
そういえば列車にも随分乗っていないようで、列車の存在すらすっかり忘れていました。今夜松山へ出る機会がありますが、県庁やあちらこちらへ立ち寄る所用があるため、自家用車で行かねばなりません。それでも私はまだ講演などで遠出する時は、列車に乗ることが多いようですが、近所の人などはもう10年間も列車に乗っていないと言っていました。「暇ができたら列車に乗って駅弁を食べながら旅をしたい」とは、妻のささやかな夢です。下灘駅や上灘駅は今までも今も、これからも私にとって始、発駅であると同時に終着駅でもあるのです。
「裏庭で ふと見返ると 鉄橋を 列車が一両 長閑に走る」
「四十年 前は四両 特急が 銀河鉄道 髣髴するよう」
「マッチ箱 形容するよな 一両の 列車長閑に 海沿い走る」
「わが町の 駅は私の 始発駅 これから先も 終着駅かも」