〇九死に一生を得る(その2)
車を止めてパンク修理のため、運転席のシート下にしまっているジャッキなどの小道具を取り出そうとしましたが、この軽四トラックを購入してからまだ一度も、自分でパンク修理をしたことがないので、どこに何がるのかさえも分らず右往左往しました。現場は昼なお暗い杉林の中だし、秋の陽が西に傾きヒグラシの鳴く声がやたらと不安をかき立てました。結局ジャッキだけは見つかったものの、ボルトを外す工具も見当たらず、とっさに親友稲葉さんの顔を思い出しました。
稲葉さんは車の修理工場を営んでいますが、最近はその仕事を息子さんに譲って双海町で農業をしています。電話がつながり運よくというのでしょうか、石久保の畑にいることが分り、早速助け船に来てくれることになりました。それまでに忘れ物を取りに行こうと歩いて人間牧場まで車道や近道の、急な山道を大汗をかきながら登り、カゴを持って現場に戻ると、稲葉さんは既に到着して、自分の車のジャッキを使って作業を始めていました。まあ手早いこと、さすが車屋さんです。
稲葉さんは私の落石に遭った状況説明を聞きながら、「もしこの石が車の運転席を直撃していたら、あなたも車も危なかった。パンクは仕方がありませんが、運が良かったというほかはありません」と、自損事故をむしろポジティブに捉えて幸運だったと喜んでくれました。考えてみればそのとおりだと自分でも納得し、助け船ならぬ助け車に来てくれた稲葉さんに大感謝し、二人で山を降り家路に着きました。帰宅して若嫁や妻にそのことを話すと、やはり稲葉さんと同じように、身の安全を喜んでくれました。
田舎の山道で時折、「落石注意」という看板を見かけます。落ちた石に注意するのか、落ちてくる石に注意をするのか分りませんが、私は偶然にも落ちてきた石に当たってしまいました。落石は一昨日まで降った雨で地盤が緩んだからからなのか、4日前に起こったチリ沖地震の影響なのか、石に聞くすべもなく分りませんが、必然にも似た偶然に遭遇するとは、私もよくよく強運の持ち主のようです。稲葉さんが言うように、家族が言うように昨日は九死に一生を得た」心境でした。
「急な崖 いきなり石が 落ちて来て ドーンと大きな 音してパンク」
「助け船 運よく親友 やって来て いとも簡単 タイヤスペアに」
「不運だと 思っていたが 幸運と 思いなさいと 諭されその気」
「また一つ 伝説増えて 物語 人間牧場 次から次へ」