〇小説「恍惚の人」から学ぶこと
何年か前の若い頃、有吉佐和子の「恍惚の人」という小説がベストセラーになりました。長編なので余り詳しく読む時間もなく、全ての内容を記憶するほど熟読はしませんでしたが、高齢者介護に奮闘する家族の姿を思い出しながら、まさか自分たち家族がその当事者になりつつあろうとは、夢にも思っていなかったし、やがて老いの坂道を下る私たち夫婦も息子たち夫婦にとって、重い荷物になるであろうことを実感するのです。
先日JA農協より「まるえびより」という情報誌がわが家に届きました。最近まったく知らない顔の若い女性農協職員が、家までわざわざ足を運んで届けてくれるのです。非農家ながら家庭菜園でいささかの野菜や果樹を作っているので、毎回楽しみに読んでいますが、介護コーナー福祉課通信に、「恍惚の人」についての記述がありました。この小説が世に出たのはもう40年も前のことですが、医療の進歩による長寿社会に、高齢者福祉は置いてきぼりになっているのでは?と書かれていました。
その中で小説に組み込まれた「家族のたどる4つの心理的ステップ」についてコメントが紹介されていました。主人公茂造は妻の死をきっかけに認知症が急激に進行し、①家族は戸惑い、主たる介護者の長男の妻昭子は、どう接してよいか分らず、②混乱し心身ともに疲れ果ててしまう。しかし茂造の肺炎を機に昭子に、③割り切りとあきらめが芽生え、前向きに介護に取り組む決心をし、④認知症を理解するに至るのです。そして茂造は光るような笑いを取り戻し、息子と嫁と孫に看取られて、静かに人生を戻っていったのです。
最終的には一番身近な家族がどう解決していくかですが、最近の世情は在宅介護ではなく、施設介護の道へと進んでいて、人生の最後を長年住みなれた自宅ではなく施設で終える人が増えているようです。わが家にも少し認知の出た95歳の親父が暮らしています。「この家の畳の上で死にたい」という親父の思いを遂げさせようと、家族で介護を続けています。あれほど嫌がっていた特老のデイサービスにも週二回通うようになって、少し光が見えてきていますが、これから先も介護には、中心となる妻や私を含めた家族の覚悟が必要なようです。
「40年 前に小説 読んだけど 人のことだと やり過ごしてた」
「日本も 高齢社会 わが家も 恍惚の人 囲んで暮らす」
「行く道と 思えば身近 人事じゃ ないと夫婦で 少し頑張る」
「気がつけば 周りはみんな 高齢者 あの人この人 いつも間にやら」