○人の噂も75日
三日前机の上の手紙やハガキを整理していると、多くの友人から退職の挨拶状が来ていてその多さに驚きました。中にはこれまでの自分の成果を誇示するように沢山の出来事を虫眼鏡がないと読めないほど書いている人もいれば、「退職することになりました。お世話になりました」と短めの挨拶だけ書いている人もあって、あらためて「退職」という二文字の後ろに隠された人間模様の深さや広さを垣間見る思いがしました。
そんな中から「定年退職」した後何も仕事をしていないAさん、「定年退職」したが関連の仕事についているBさん、二年も早く優遇措置で「早期退職し自宅で農業をしているCさんと、「退職」は同じでもそれぞれ別の人生を歩んでいる人にハガキを出しました。早いものでその「ハガキが届いた」と昨晩電話がかかってきました。
定年退職後何も仕事をしていないAさん
「いやあ自由はいいと一ヶ月は思いました。しかしその後生活のリズムが狂ったのか体調を崩して病院へ行ったところ、胃潰瘍と診断され二日に一回通院しています。好きな酒も医者から止められタバコは相変わらずやっていますが健康が気がかりです。風呂やパチンコもそうそう毎日行けるものではなく、自由は意外と不自由ですね。退職金が出たのを知ってか金融機関が毎日のようにうるさいくらいやって来て困りました。でも退職金を当てにして家を建てているので、繰上げ償還すれば半分くらいは持っていかれます。退職したら健康保険などの支払いで予想以上のお金が要るのに妻も私もビックリしました。
定年退職したが関連の仕事についているBさん
「毎日弁当を持って社会福祉の仕事をしています。これまで部下だった人から口では先輩と呼ばれながら、命令されるような有様でやってられません。それでも自分は退職した身だと自分に言い聞かせていますが、まあ責任が余りないので、毎日残業もなく6時には家に帰り、土日には妻とあちらへ行ったりこちらへ行ったり楽しい日々を暮らしています。給料が半分になって給料日の度に妻のため息が聞こえてきます。多分再雇用は2年程度なので次の身の振り方を考えておかないといけませんね。でもこうして働けるだけ良しとしないと・・・・」
二年早く優遇措置で早期退職し自宅で農業をしているCさん
「優遇措置で退職金上乗せという話しに魅力を感じ、加えてパソコンが使えないこともあって嫌気がさし思い切って辞めましたが、いやあ大変ですよ。無収入でしょう、ましてやわが家のような農業では儲かるはずがなく、辞めたことを少々悔やんでいます。でも毎日弁当を持って野良仕事に出かけ、真っ黒に日焼けして県公そのものです。外で働く妻のお陰で今は紐のような人生です。年金が出るまでにはまだ間があるし、子どももまだ学生なので金がかかるし、要は使わないことを第一義に隠忍の日々です。今年から自治会長が回ってきて、これがまた大変です」。
三人三様それぞれの暮しを組み立てているようですが、電話の向こうから健康、経済、生きがい、人間関係、地域貢献、老後など様々な問題点が読み取れるのです。最後はAさんも、Bさんも、Cさんも異口同音に「人生を謳歌しているあんたが羨ましい」と言って長電話を切りました。
確かに彼らが言う通り、私は羨ましいような生き方をしています。60歳で教育長を辞職して以来3年余りが過ぎましたが、それなりに健康だし、年金までどうにか食いつないで経済的には赤貧ほどではありません。夫婦・家族・親子・近所・友人などの人間関係もすこぶる良好です。人間牧場を中心に生きがいもそれなりにあります。地域貢献は人以上にやっているつもりです。老後もしっかりと見据えています。それもこれも健康と経済という2本の柱がしっかりしていなければ出来ぬことです。これからも彼らの道しるべになるよう生きて行きたいものです。
人の噂も75日、そろそろ忘れられる年代になりました。
「退職は 冥土の旅の 一里塚 ここから先が 最も大事」
「退職を したら責任なくなるが 金が入らぬ 知ってか早期」
「自由人 なって始めて 不自由を 感じるようでは 遅い気もする」
「ああ人生 あっという間に 駆け抜ける 気が付きゃ後は 余命いくばく」