○タマネギの収穫
年寄りとはホトホト身勝手なもので、今朝起きて隠居へ行くと親父の姿が何処にも見当たりません。毎度の事ながら菜園にでも行っているのだろうと思い、菜園へ行って見ると、朝早くもタマネギの収穫をしているのです。今年のタマネギは豊作のようで、大きく太ったタマネギは地中深く根を張っているため、親父の力では中々引き抜くことが容易ではありません。すでに作業を始めているので私は急いで自宅へ帰り長靴に履き替え、パジャマのままで畑に出ました。外の空気は初夏ながらひんやりとして肌寒い感じさえします。親父と一緒にタマネギを引き抜きました。親父が一列、私が二列のスピードで引いて行きますが、親父は時折背を伸ばしながら作業をしていました。僅か20分ほどでしたが全てを引き抜きました。
親父の話によると今夜あたりから雨模様とのことです。親父の暮しはお天道様中心です。雨が降ったらお休み、晴れた日には野良仕事です。一方私は仕事中心です。今日は岡山県笠岡市へ講演に出かけるため二日ほど留守をするため、タマネギの収穫は手伝えないと言っているにもかかわらず、今日を吉日と定めた親父の予定に合わさなければならないのです。それもそのはず、今は梅雨の真っ最中なので雨の周期に会うとタマネギの収穫は一週間も二週間も遅れてしまう恐れがあるのですから、仕事中心の私よりお天道様中心の親父の方が正しいのです。このままほおって置いて行く事も出来ず、パジャマのままの畑仕事と相成った訳です。それでもお陰様で少しはお役に立つことが出来、少し安心をして旅に出られるのです。
親父の言うのには、このまま夕方まで畑で乾かし、夕方キャリーに入れて納屋に仕舞い込めば雨に合うこともないのだそうです。
タマネギはわが家の一年分の食糧です。と同時に親類縁者へのお裾分けもしなければなりません。わが家へは漁村らしく年中色々な季節の魚が親類縁者から届けられます。そのお返しは菜園を持たない漁師さんにとってみれば有り難い贈り物だそうで、タマネギボジャガイモもおすそ分けとなるのです。
昨日妻は夕食に肉じゃがを作ってくれました。新ジャガイモに新タマネギは格別の美味しさで、ご飯によく合っておかわりをしてしまいました。妻はもうそろそろ新タマネギと新ジャガイモを使って飛びきりのコロッケを作ります。自分で言うのも何ですが、妻の作るコロッケは最高だと思うのです。結婚して以来ずっとコロッケはわが家の初夏の自慢料理になっていて、この頃になると子どもたちがコロッケが食べたいというのです。妻はコロッケを沢山作り子どもは勿論親類縁者に送るのです。これまた喜んでもらうものですから、その気になって作るという循環です。
私はその都度、コロッケに小麦粉をつけ、卵にくぐらせパン粉をつける最終段階の手伝いをさせられます。あのヌルヌルした感触は一番嫌な行程なのですが、妻の言うがまま従っています。
今日からの旅は間もなく始まります。畑に干されたタマネギのことも気になるし、親父が果してこの処理が出来るかどうかも心配です。今日はほたる祭りで娘一家、息子一家もやって来ます。本当は息子にタマネギの収穫を手伝って欲しいのですが、私が留守をするためそのことを頼みもできず出かけます。
早くも隣の部屋では有線放送がほたる祭りの告知放送をしている音が聞こえています。ああ今日はほたる祭りが雨にならなくてよかったと思う朝でした。
「タマネギが 仲良く並んで 梅雨晴れ間 甲羅干しする やがて首切り」
「親父より 少し体力 多かりし タマネギ親子 ウンコラドッコイ」
「タマネギを 引き抜き頼む 家を出る 後の作業は 親父一人で」
「ご苦労さん 声をかけたし タマネギに 八ヶ月とは これまた長い」