〇不用になった3本の杖
私は今年の4月、長年靴を履く度違和感や痛みを覚えていた左足の外反母趾の手術をしました。たかが外反母趾くらいの軽い気持ちで手術に臨みましたが、これが意外と小さいながら大手術で、親指の付け根を切断して曲がりを補正し、金具で留めるという大胆なものでした。全身麻酔だし骨の切断をしたり金具を埋め込んでも、様子を見ることもなく全く記憶にない離れ業でした。
時々行うレントゲン撮影で骨の具合を観察した主治医からは、手術は成功しその後の傷の具合も順調と告げられたものの、抜糸までの10日間と要観察10日間、転院してリハビリの1ヶ月半は、片足の自由が全く効かず、車椅子や杖を使い身体障害者として日々を過ごしました。手術とリハビリにに関わってもらった多くの方々のお陰で、また退院後は家族の支えもあって、身体障害者の域を脱し、今では多少違和感は残るものの杖の助けも必要なくなり、何とか2本足で歩いたり軽い農作業ができるようになりました。
今日本では東京オリンピックに続いて東京パラリンピックが開かれています。多くの障害を持ったアスリートの活躍を心を熱くして見ていますが、たった3~4ヶ月の身体障害でさえ心まで病んだわが身に比べ、彼ら彼女らは一生障害と向き合って生きて行かなければならないのですから、その心労たるや相当なものがあるものと思われます。ほんの1か月前まで使っていた3本の杖は幸いお払い箱となり、隠居の傘立てに入れましたが、次は加齢からくる足の衰えの補助具として、いつの日か日の目を見るかも知れません。
健常になると身体障害だったことをいつしか忘れるものです。この貴重な経験を活かし、せめて身体障害を持った人の気持ちになり、ささやかながら寄り添って生きたいものだと思っています。健常に暮らせることの幸せを嫌というほど感じた今年の夏でした。
「玄関に 不用になった 3本の 杖がひっそり 隠居へ終う」
「一時の 期間だったが 身障に 今はどうにか 健常になる」
「パラ競技 見る度ハンディ 克服し 活き活き競技 感動見入る」
「3本の 杖の厄介 ならぬよう したいがやがて 加齢必要」