〇ささやかなボーナス
役場に勤めていたころは、安月給ながら夏と冬にはボーナスが支給されていました。私たちの時代は今のように給料やボーナスを、振り込みで貰わず直接手渡しだったので、ボーナスを貰う日は自分も妻も特別な日で、しっかりと仕事の予定を外して自宅へ一目散で帰っていました。妻はおもむろにそのボーナス袋を神棚に供え、感謝の祈りを捧げた後開封して、額の少なさに少し落胆しながら、それでも少し喜んで使い道をしっかりと考えて使っていました。私も少しばかりの小遣いを言い訳を作って貰いましたが、家のローンや子どもの教育でボーナスは右から左の手合いでした。それでもつつましい生活ながらローンも全て返済し、無借金で定年を迎えることが出来たのは、妻のお陰と給料やボーナスのお陰でした。
わがままを妻に言って、60歳の定年年齢と市町村合併を機に再就職をすることもなく自由人となって、給料とボーナスの道を断たれましたが、その時私の提案で大きな缶詰のような貯金箱を買い求め、時々いただく講師料や原稿料等の一部を半強制的に入れ、年に一度クリスマスの日に二人で貯金箱を缶切りで開けてそれをボーナスとして、お歳暮やお正月の費用に当てることを思い立ちました。最初は中々身につきませんでしたが、そのうちその作戦も上手くできるようになり、今ではすっかり私たち夫婦の年に一度の楽しみとなっているのです。気の早い妻はお歳暮のシーズンでもあるので、クリスマスを待たず先日開けようと私にねだり、先日二人で開缶しました。中身の金額は夫婦だけの秘密ですが、年金暮らしとなって10年、初老の域に達している私たち夫婦にとっては、ささやかながらの喜びなのです。
妻は早速この一年間お世話になった方々へ、お歳暮を送ってくれました。貯金箱ボーナスもお歳暮送りもいつまで続くか分りませんが、元気に暮らせることへの感謝を込めて、もう少し続けようと妻と話していて、そろそろ百円ショップダイソーへ缶詰タイプの貯金箱を買い求めに行こうと妻と話をしています。
高杉晋作が「面白きこともなき世を面白く、すみなすものは心なりけり」と辞世の句を残しています。考えてみればいつの間にか歳をとり、私たち夫婦の砂時計はもう落ちる砂さえ余り残っていませんし、将来への不安も付きまといますが、世の中や人生をネガティブに捉えると「面白きこともなき世」となります。でもポジティブに捉えて生きると、「面白きこともなき世を面白く」生きれるのです。やはり「すみなすものは心なりけり」ですから、これからも双魚図に見習い、まだ半分は楽しみがあることを信じて生きて行こうと思っています。
「ボーナスが なくなり早くも 10年が 過ぎたけれども 工夫ボーナス」
「缶切りで 貯金箱なる 缶詰を 開ける夫婦の 嬉しそうな顔」
「世の中を 悲観したって つまらない ポジティブ生きる ゆえに楽しい」
「来年は どんな夢持ち 生きようか あれこれ思い 夫婦楽しく」