〇夜神楽見学会(その2)
第一部の夜学を終えた私たち一行は、ほたる行燈のほの暗い明かりを頼りに、500mほど先の熊野神社を目指して、飛び交う幻想的なほたるの光を見ながら、矢落川に沿って歩きました。遠くで神楽の始まりを告げる太鼓の音が聞こえ、急な階段を登って熊野神社の境内に入ると、かがり火が焚かれて幽玄の世界が広がっていました。私は毎年のように、もう何度もこの場所を訪れて、愛媛県指定の無形文化財である藤縄神楽を見ているため、境内に集まった人の中には顔見知りの人も沢山いて、あいさつを交わしながら拝殿の中の空いた座布団席に座って、見学させてもらいました。
神官の衣装をまとい神楽を演じる石岡さんは、長い取り組みの中ですっかり神楽の中心人物として活躍している姿を見て頼もしく思いました。
藤縄神楽にはめくりに示されるとおり、色々な演目がありますが、藤縄神楽の特徴はどの場面でも演技者が目の回るような回転をするのです。私は勝手に藤縄神楽を回転神楽だと思っています。神官が刀を持って回る舞や、月と日輪の書いた漆塗り皿を落とさずに回す舞は、神業に等しい妙技でいつも感心して見ています。
昨年に続き今年も鬼の面を被ったダイバンに声を掛けられ、境内から拝殿に呼び上げられ、塗り皿を二つ持って回転の舞を披露する羽目と相成ってしまいました。お客さんのやんやの拍手喝采を浴びて、調子に乗って何回も回転して、ムカデ騒動の後の体調もあって少し目を回しましたが、三崎に住む友人浅野先生が連れて来られていた、外国人の女性も飛び入り参加して、ダイバンと一緒に転げるハプニングもあり、大いに盛り上がりました。
藤縄神楽は奥ゆかしい正調演目もさることながら、希望すれば参加者誰もが舞に参加できるため、とても身近に日本の伝統文化を楽しむことができるよう、心を配っているようです。ゆえに人気があると納得し、今年も回転舞を披露したお礼に、お餅を沢山いただきました。午後9時から新装なった旧田処小学校の2階にて交流会が開催されるため、私たち一行は早々に引き上げましたが、「来年もまた来て下さい」と沢山の人から惜しみない拍手と声を送られました。
朝から昼過ぎまでの雨や、夕方からの濃い霧も止み晴れて、空には綺麗な三日月が顔を覗かせていました。ほたるも綺麗でした。交流会は手作り郷土料理が沢山並び、私は山崎の美味しい豆腐を殆ど一丁ペロリと食べてしまい、勧められるままアルコールゼロのビールを飲み過ぎ、酒に酔った松本さんと富田さんを途中で降ろし、12時近くにやっと自宅へ到着しました。九十九折の山道を走ったため、妻は車に酔ったようでしたが、何はともあれ楽しい一夜でした。
「拝殿に 呼ばれ上がって 舞披露 グルグル少し 調子乗り過ぎ」
「外人の 女性がダイバン 蹴飛ばして 拝殿笑い 大きな渦に」
「見上げれば 三日月煌々 路照らす ほたる一緒に ついて飛ぶなり」
「ゼンマイや 筍山菜 並びたる 田舎接待 嬉しくなりて」