〇断わりきれないこと
この一ヶ月ほど少し気が滅入ったり、喜んだりする二つの出来事がありました。一つはある顔見知りの方から借金の話が持ち込まれました。その人には過去にも何度か少ないながら、お金を貸したことがあるのです。最初は几帳面に返済してくれていましたが、この2~3回返済が滞っていて、それなのに借金を申し込む図太さは、私にも理解できなかったものですから、「前回の借金を返せば貸す」と突っぱねてしまいました。大した額でもないので貸そうかと心は傾きましたが、心を鬼にして一応は断わったのです。
その人が帰ってから色々考えましたが、人にお金を貸して欲しいと借金を申し込むことは余程のことなので、仕方がないと諦め取りに来るよう電話を入れてあげました。その人はあっという間にわが家にやって来て、封筒に入れたお金を、地べたに頭をつけるほど感謝し涙を浮かべながら受け取って帰って行きました。私はいいことをしたと少し気分が楽になりました。
私の妻の実家は海産物屋でした。何度か印かずきにあって身代を根こそぎ持っていかれたことがあったようです。妻と結婚する時今は亡き妻の母親が、「印は滅多につくな」「貸した金は戻ってこないと思え」「金を借りる時は神仏、金を返す時は地獄の悪魔」と、くどいほど口を酸っぱくして教えてくれました。これまではその言葉が耳に残って、そういう憂き目には会いませんでしたし、「貸した金は戻ってこない」程度のお金なのでと諦めていました。
ところがどうでしょう。昨日その人は一ヵ月後返すという約束どおり、前2回分も含めて私のところへ返済に来てくれたのです。しかも私を地獄の悪魔とも思わずに、自分の家で採れたという野菜を利子のつもりと持って来てくれたのです。人を信じることの大切さを垣間見ましたが、全てがこう上手くいくとは限らないようです。
もう一つの話は、ある人に離婚話が持ち上がったことです。その人は妻も子も二人いるのに、奥さん以外に好きな人ができたらしく、離婚したいので中に入って欲しいと言うのですが、そんな難しい話に私が入る必要はないと、これまた突っぱねました。しかしその奥さんからも頼まれては嫌とも言えず、仲裁に入りました。弁護士や家庭裁判所の裁判官でもないので、条件などの詳しいことは分かりませんが、人間としていかに生きるかということ、子どもの将来のことを第一に考えることなどなど、忙しい合間を見つけてお互いの話を聞きながら、復縁をベースに話し合いました。残念ながら夫婦の関係は既に氷のように冷めていて、ついに離婚を決意したようですが、子どもの親権や養育など、素人の私では片付けられず、法律に詳しい人の仲介を仰ぐことになりました。
「女房妬くほど亭主もてもせず」ほどの私には、妻一人さえ精一杯で、人の奥さんなどに手を出す余裕等さらさらありませんが、世の中は「蓼食う虫も好き好き」で、人の奥さんが気になる人もかなりいるようです。でもこの離婚を決意した夫婦のように自分たちはいいとして、犠牲になるのはやはり子どもです。今の社会は恋愛結婚が多いため50点ずつを持ち合わせて100点からスタートするような気がするのです。そしてこんなはずではなかったと1点また1点と減点させ、気がつけば化けの皮やメッキが剥がれて失望してしまうのです。そこへ行くと見合い結婚の私たち夫婦のように結婚時0点ずつを持ち合わせてスタートし、長い年月をかけて加点していく夫婦もいるのです。結婚とは何か、離婚とは何か、考えさせられる出来事でした。