人間牧場

〇漁師を辞めることを決意した叔父

 数日前、下灘で漁師をしている叔父からわが家へ電話がかかってきました。91歳ゆえ電話をしてきた叔父は耳が遠く、電話に出た妻も一方的に話すだけの叔父と、会話を交わすこともなく一夫的に電話を切ったようでした。断片的でしたが、「91歳になってわしももう歳なので、医者の勧めもあって、ここが潮時と思い漁師を辞める」「網やロープが沢山あるので、畑に使うようだったら取りに来い」とのことでした。

叔父から貰った網やロープ

このところ私のスケジュールが立て込んでいて、その暇もなかったのですが、幸い2~3時間取れたので、叔父の家に行きました。叔父は耳が遠いためかなり大きな音量で、居間に座ってテレビを見ていましたが、私の来訪を心待ちにしていたようで、色々な話をしてくれました。3年前わが親父の妹である連れ添い叔母に先立たれ、同居の息子(60歳)も独身ながら病気がちで入退院を繰り返していて、底引き網漁を続けることができなくなったようでした。

 医者の勧めもあって91歳まで頑張ってきたけど、ついに漁師を廃業する決意をしたようでした。聞けば16歳から漁師をしていたのですから75年間もの長い間、この道一筋の漁師人生でした。これから乗っていた漁船のや大量の漁具類の始末など、沢山の残務処理をしなければならないようですが、海に生きた日々日に悔いはないけれど、船に乗れなくなることの寂しさはつのるばかりだと、涙ながらに話してくれました。

 帰り際、家庭菜園の野菜作りに使うようにと、沢山の網やロープをいただきました。早速今年の冬はいただいた網類をほどいて、菜園に使う算段をしなければなりません。叔父が漁師を辞めると私の親類ではもう漁協組合長をしている従兄弟一人しかいないため、私事ですがいつも沢山の魚を貰っていた補給源を断たれてしまい、わが家にとっても大打撃ですが、これも時代の流れと諦めます。帰り際「お前には世話になった。とくに母ちゃんが生きていた頃『ナミ子姉さんの詩(うた)』を編集してくれたことは感謝しても感謝しきれない」と喜んでくれました。人間はみんな歳をとります。やがて私も悲しいかなそのような日が来ることでしょう。

「電話にて 漁師廃業 すると聞く 早速出かけ 色々話す」

「凄いなあ 正業一筋 70年余 俺の年程 船乗り漁師」

「もう魚 くれる人なく 寂しいな 私の健康 どうすりゃいいの?」

「沢山の 網やロープを 持ち帰る 今度は俺が 野菜恩返し」

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