〇親父を病院へ連れて行く
数日前から親父が歯の不調を訴えていて、「暇になったら病院へ連れて行って欲しい」と頼まれていましたが、先週一週間は暇になるどころか、猫の手も借りたいほどの忙しさで、親父の体調のことを気にしながら、早く暇を見つけてと思っていました。今日は人に会う約束が午後からある程度なので、昨日の夜親父の隠居に出かけ、「明日の朝7時30分に家を出るから準備をしておくように」と伝えておきました。
今朝5時に親父は私の書斎の窓を叩き、「今日の午前7時30分出発」の確認にやって来ました。歳をとって隠居で1人暮らしていると、月日や曜日も関係ないサンデー毎日なので、時々こうして「今日は何日か?」「今日は何曜日か?」と尋ねにやって来るのです。93歳になった最近は日課にしていた散歩もやらなくなって、少し足腰が弱ったような気配を見せています。それでも息子たちの手助けをしたいと、昼間は畑に出て草削りをしたり、庭の草を引いたりして世話をしてくれているのです。
予定通り午前7時30分に家を出て、車で45分ほどで県立中央病院へ到着しました。駐車場の係りの人に親父が高齢で歩くのがおぼつかないと訳を話すと、玄関先にコーンの立っている身体障害者用の駐車場へ案内してくれました。初診なので受付で診察手続きを行い、歯科診療の窓口へ回されました。診療は予約制なので予約の人が次々に訪れ診察をするのですが、こちらは初診なので待合所の長椅子に親子で座って順番を待ちました。1時間余り不安な気持ちで待っていると、受付から中に入るように誘われました。これまで親父の歯を担当していた先生は辞めたらしく、別の若い先生でもいいかと事前に相談がありました。
中に入ると私介添えの私のために、診察台の前に小さな椅子が用意され、そこで診察や治療の様子を眺めながら親父の様子を横目、節目がちに眺めていました。歯の治療は時間がかかるので、治療は30分ばかりかかりました。先生の説明を受け「今日は仮治療なので来週月曜日の午後2時30分に来るよう」指示を受け、一通りの治療を終えたのです。
病院の待合席に座って行き来する人をぼんやり眺めていると、行く人来る人の大半が高齢者で、杖を突いたり手すりにつかまったりしながら体を支えていました。若いころ見たスウェーデンの高齢化社会の映画が思い出され、日本も高齢化社会になったことを実感しました。かくいう私も昨年から六十五歳以上の高齢者に仲間入りをしているのです。「老い」や「死」という嫌がうえにもやって来る出来事を、まだ他人事のように思っていますが、そろそろ覚悟を決めてかからなければなるまいと、思いを新たにしました。
親父は病院へ息子に連れて行ってもらったことが嬉しかったのか、安心したのか、車から降りる時「今日はありがとう」と水臭い言葉をかけてくれました。そして「車の油代はなんぼか?」と聞きました。「そんなの要らん」というのに、帰りに園芸店に立ち寄って買い求めたタマネギの苗物代といって、3千円をくれました。昔気質の人間のやることなので、あり難く受け取り私の財布毎妻に渡しました。
親孝行等出来ぬ不義理な息子ですが、これから先も親父の面倒を見るのは息子・長男の務めだと思い、しっかりと支えてやりたいと思っています。
「歯の調子 悪い親父を 病院へ 孝行息子 ような顔して」
「待合所 行き交う人の 殆んどが 杖を突いたり ロボット歩き」
「油代 幾ら要ったか 親父聞く 車に乗せて もらった恩を」
「これからも 孝行息子 なりきって 親父人生 しっかりみとる」