○梅にウグイス「ホーホケキョ」
私たちが子どものころは、花札なるカード遊びがありました。漁村ゆえ冬になると海が時化て漁に出られない日が何日も続くため、大人たちは何人かが集まって花札をしていたようです。子どもゆえその現場に居合わせたことはありませんが、多分時代劇に出てくる博打場さながらだった野ではないかと思われるのです。お金を賭ける博打はいつのまにか集落に「あの人は負けて大損をした」などと密かな噂が立ち始めるのも、冬の風物のようなものでした。さして遊ぶことや遊び場のなかった田舎では、賭ける花札遊びは悪しき遊びながら、ある意味漁村の他愛ない風通しのようなかんじをしたものです。
私たちは青年団に入ると、女遊びこそなかったものの酒や花札を、いっぱしの大人になったような顔をして経験しました。勿論お金を賭けるのは違法なのでしょうが、5円だとか10円を出してやったような記憶があるのです。
花札遊びは金さえ賭けなければいい遊びだと思うのです。何よりもいいのは花札に書かれている季節や草花などが色鮮やかに描かれていて、一月は松、二月は梅、三月は桜と季節ごとの風物を確認することができました。その中には鹿や猪、蝶や鶯などの動物も色使い鮮やかに描き込まれていました。
一昨日近所の理髪店へ散髪に出かけました。馴染みの散髪屋なので散髪しながら居眠りができるのですが、紙を切られながらついウトウトしていると、何処からともなく「ホーホケキョ」と鶯の鳴き声が聞こえてきました。散髪屋のご主人は長年メジロを飼育していますが、メジロと一緒にウグイスを飼っているらしく、毎年このころには早鳴きを楽しむことができるのです。野生のメジロはまだ寒いゆえ初鳴きを聞いてはいませんが、散髪屋のメジロは相当訓練ができていて、しっかりとした口調で何度も何度も「ホーホケキョ」と鳴き、時には「ケキョケキョケキョ」と谷渡りまで披露してくれました。
わが家の庭の隅に早い春を見つけました。親父が世話をしている盆栽の梅がこのところの陽気で満開を迎えているのです。そっと顔を近づけて花の香りを鑑賞してみました。ほんのりとした梅の香りはまさに春の香りそのもので、何ともいえない芳しさでした。
デジカメで写真を撮ってその場を立ち去ろうとすると、ウグイス色のメジロが一羽、梅の花をついばみにやって来ました。まさに花札に出てくる「梅に鶯」の光景で、すっかり見とれてしまい残念ながらシャッターチャンスを逃してしまいました。
畑の隅には黄色い菜の花が咲き始め、待ち遠しかった春はもうそこまでやって来ています。間もなく鶯の一番鳴きが聞こえたり、春一番が吹くのでしょうが、良きにつけ悪しきにつけ季節を楽しむ余裕を持って暮らしたいものだとしみじみ思いました。
「散髪を しながらウグイス ホーホケキョ 一足先に 春を楽しむ」
「花札に 描かれた絵柄 浮かべつつ そんな季節か 感心しきり」
「盆栽の 梅にメジロが やって来て 花をついばむ 絵になる光景」
「格子戸を バック盆梅 収めたが 写真の出来は 今ひとつなり」