人間牧場

〇道具考「錆びた鉈」

 わが家は親父まで代々漁師だったため、家の周りには漁にまつわる道具類がいっぱいあり、その中で子どものころから暮らしてきました。しかし親父が七十歳で漁師を辞め陸に上がってからは、それらの道具は次第になくなり、漁業を語るすべもないのです。しかし親父はそんなことを見越してか、家の横に倉庫を改造した粗末で小さい海の資料館「海舟館」を造って、何がしかの展示をしていますが、それさえも語り部だった親父の口述が高齢のため出来なくなり、風前の灯といった感じです。幸い私は若い頃七年間漁師をやった経験があるので、生齧りで口述を続けています。

道具箱から出てきた二本の鉈
道具箱から出てきた二本の鉈

 親父は器用で晩年は家の横に造った小さな作業小屋で、日曜大工の域を超えない程度の色々な大工の真似事をしていました。ゆえにその作業小屋にはこれでもかという程道具類が集められています。殆どの道具類は無造作に埃を被り錆びにまみれていますが、私もこの歳になって少しそんな暮らしに興味を示し、不器用ながら道具類の幾つかを使って日曜大工の真似事をしています。昨日他の道具を探していて二本の鉈を見つけました。普通は斧やマサカリ、鎌、包丁を使うため、鉈は殆ど使いません。どういう経緯でわが家の道具箱にあるのかも分りませんが、少し調べたくなりました。

 鉈は森で働く人の必需品だったようです。枝打ちなどは言うに及ばず、木を切ったり削ったり、雑草までも刈り払いました。また時には狩猟で捕まえた動物の解体ににも使ったようです。何年か前九州の山奥で山仕事を生業とする人に出会いましたが、腰にぶら提げた鉈は研ぎ澄まされて鈍い光を発し、自分の髭まで剃れるほど手入れをしていました。林業が外材に押されて衰退し、山仕事に携わる人の数もどんどん減っていますが、汗と血の匂いの染み込んだ鉈を見る度に、心がときめくのです。 
 昨日私は錆びて使わなくなった二本の鉈をグラインダーで錆びを落とし、砥石で研いで見ました。研いだ後油をつけて布で拭きました。髭がそれるほどではありませんが、サヤでも手づくりし、「土佐刃物」刻印された鉈を折に触れ、これからも使ってみたいと思っています。

  「斧という 漢字知ってる 鉈知らぬ どんな道具か さえも知らずに」

  「道具箱 出てきた鉈を 丹念に 磨いて研いで 宝物する」

  「鉈使い 板切れ割って 焚き付けを 作り囲炉裏で 鍋物作る」

  「土佐刃物 刻印どおり この鉈は よく切れ自慢の 一品なりぬ」  

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