〇早咲きと遅咲き
「今年の冬は寒かった」と思うのは、私が歳をとった証拠だと自分で納得していますが、寒いと思えば思うほど春の来るのを待ち遠しいもので、水仙、菜の花に続いて咲こうとしている桜を、一日千秋の思いで心待ちにしています。こちらが真冬の頃、南の国沖縄では緋寒桜が咲き始め、その後高知や熊本、宇和島等が毎年競うように、桜の開花一番乗りにしのぎを削っていますが、一番や珍しいものの好きな日本人は早生、極早生、超極早生を好み、桜も河津桜が何かと話題になりますが、「桜は吉野桜」とばかりに本流を行く人たちも多いようです。
「早咲きは早く散り、遅咲きは遅くまで咲く」とは私の造語です。考えてみれば話題になるからと物珍しさに惑わされて、早咲きを選び過ぎると、後で「しまった」と思うことも良くあるようです。私は花をまちづくりのテーマにして、色々な花を町内のあちこちに植えてきましたが、桜は言うに及ばず、殆どの花は話題にはならないものの普通種が一番綺麗なような気がするのです。特に在来種で自然交配して野山に咲く山桜の美しさは、素朴ながらピカイチで、この頃になると佐田岬半島の野山を彩る山桜は、私が漁師をしていたの頃の思い出として心に焼きついています。
鯛網漁師をしていた頃、佐田岬半島沖は鯛の格好の漁場で、山桜が咲けば豊後水道を鯛が産卵のため伊予灘に上ってくるのです。早朝午前1時に豊田漁港を出航、佐田岬沖で朝を迎え、ローラ五智一番網を入れると、銀鱗輝く桜鯛が沢山取れました。大漁幟を立てて帰港する気分は最高で漁師冥利につきました。残念ながら体調を壊し漁師を断念して役場に勤めることになってしまいましたが、今でもあの時のドキドキ感やジーンとした思い出は忘れることができません。
私は桜に例えれば、どちらかというと遅咲きな人生でした。私が転職して役場に入った時、同級生は既に係長をしていて、及ぶべきもないスタートを切っていましたが、人生は遅咲きでもまた味があるようです。そういえば当時、中根千恵の「遅咲きの人間学」?という本を読んで納得したことを思い出しました。
「桜咲く 早咲きあれば 遅咲きも 早く咲くのは 早く散ります」
「わが人生 どちらか言えば 遅咲きで それでも人生 つじつま合って」
「山桜 岬を染めて 咲く頃に 桜鯛追う 漁師あの頃」
「遅咲きの 人間学を 自認して 残りの人生 花を楽しむ」