〇親父の怪我
今月96歳になったばかりの親父が、先日散歩に出た家の傍の路上で転び、顔に怪我をしてしまいました。顔から血を流して倒れていたのを、近所に住む人が見つけて連れて来てくれました。運よく妻が自宅にいた時だったので、妻はオキシドールで消毒して傷口用のリバテープを貼り、様子を見守ることにしましたが、熱が出てはいけないと今流行の熱冷まシートを額に張って寝かせたお陰で、大した痛みもなく3日間が経ちました。
ところが3日前、今度は散歩に行くと言って出かけた帰り道、家の近くの三叉路でまた転び、郵便配達員と隣に住む叔母が見つけて、たまたま家にいた私に連絡が入ったのです。私は直ぐに小走りで親父に近づき顔から血を流している親父を抱かかえて起こし、とりあえず背負って自宅へ帰ろうとしました。顔の怪我でパニック状態になっている親父は背負うとことのほか重く、僅か10mほどなのに私は足腰に堪え、最後はたじたじでした。放心状態の親父を縁側に座らせ、見よう見真似で妻と同じような手当てをして、隠居の布団に寝かせました。
親父は恩を感じたのか、「ありがとう。迷惑をかけてすまんのう」と私に言葉を返しましたが、痩せて痴呆の進みつつある親父さえも、重くて背負えないわが身の老いを、「これが世に言う老々介護というのか」と少し感じながら、口で言うほど易しくない在宅介護を、今後どう実行すればいいのか多少戸惑いました。私はとびっきり上等な親孝行息子ではありませんが、それでも親への恩は感じているし、親の面倒や先祖祀りをするのは長男の仕事だと、長男教育をされて育っているので、私たち夫婦はこれも自分たちの仕事と何の抵抗もなく受け入れているのです。
親父は一週間に水曜日と土曜日の2回、近くの特老へデイサービスに出かけています。今日はその日なので、昨晩今日のことは告げていても、今朝はすっかり忘れてしまい、特老から迎えの車が来る9時が近いというのに、畑に出て草削りをしていたようで、呼び戻して妻の用意してくれた着替えの入ったバッグを持って、これから出かけるところです。親父にとってデイサービスは、午前9時から午後4時までと長いゆえ、また特老の冷房がたまらなく寒いと感じるようで、余り行きたがりません。それでもお風呂に入れてもらえることが楽しみなようで、「今日は温泉に行く日だ」と耳の遠くなった耳元で大きな声で諭し、とりあえず今日もどうにか出かけて行きました。目出度し目出度しといった感じの朝でした。
「転げると 顔から先に 地面着く 顔面あちこち まるで地球儀」
「痩せている 親父背負いて 家までの 坂道難儀 大汗かいて」
「徘徊を するほど元気 ないけれど 弱る足腰 鍛錬つもり」
「ああ俺も 二十年後は こうなると 老いの厳しさ 切々思う」