〇玄関の足拭きマット
わが家を新築したのは今から37年前の昭和52年でした。青年の船の班長として建国200年のアメリカへ出かけたのが昭和51年でしたから、帰国後直ぐに今の場所に660坪の土地を購入し、お金もないのに自宅の新築を思いつき、親父と折半で家を建てたのです。住宅ローンを組んだこともあって、若い頃の生活はかなり苦しかったと妻は述懐していますが、今にして思えば若気の至りとでも言うのでしょうか、よくもまあやったものだと、私たち夫婦の行動に感心するのです。
自宅は本宅や隠居、倉庫、塀などを次から次へと整備して現在に至っていますが、新築した折玄関先に真新しい足拭きマットを置きました。足拭きというよりは靴の泥落しといった方が正しいのかも知れませんが、足拭きマットはこの37年ほとんど毎日家族の玄関出入りの度に家族の土足で踏まれ続けて来ました。ところがつい最近錆びて傷んで来ました。少し気になってそろそろ買えど機と思っていましたが、忙しさにかまけてすっかりそのことを忘れていました。
数日前、その足拭きマットが真新しくなっていることに気がつきました。そのことを若嫁に話すと若嫁が、「お父さん気がついた!!」と説明してくれました。若嫁も私と同じように足拭きマットが傷んでいることに気がついて早速ホームセンターで買って帰り置いてくれたようでした。わが家では今年から近所付き合いの全てを私から息子に代替わりさせました。勿論全てといっても要所要所お金に要るところや臨時の出費はまだまだ私たちですが、足拭きマットは息子たち夫婦の出費で取り替えられました。多分これからも築37年のわが家はあちらこちらに故障や修理が出始めていて、息子たちの苦悩も始まろうとしています。
家を修理しながら持ち堪えるのは容易なことではありません。ましてやお金がかさむとなお更二の足を踏むものです。年金暮らしの私たち夫婦と、安月給な息子たち夫婦が寄り添ってきて行くには、子育てを終えて少しばかり余裕のありそうな老夫婦が負担をしてやらなければ暮らしが成り立たないのです。さりとて息子は長男ゆえに私たちの持ち家をこれから引継ぎ、家主となったのですから、私たちが若い頃苦労したように少しでもお金を貯めてこの家を守って行かなければならないのです。奮起を促しながら足拭きマットというささやかな負担をしてくれた息子たち夫婦に、少しだけ感謝しました。
「玄関の 足拭きマット 若嫁が 取り替えてくれ 何処か清しい」
「出入りの 度に足拭き マット踏む 37年 ご苦労さんと」
「わが家では 世代交代 順調に 進んでいます だけどお金は」
「この家に 住んで久しい そこここが 傷み始めて 直し必要」