○散髪屋で男前を上げた私
知らぬ間に少し頭の髪が伸びたようなので
昨日男前を上げるため馴染みの散髪屋へ行った
散髪屋の入り口には赤と青の広告塔がぐるぐる回っていた
中に入ると大将と女将さんが愛想の良い声で迎えてくれた
外は寒いのに店の中は暖房が効いてまるで春のような暖かさだ
「さあどうぞ」と誘われるままリグライニングの椅子に座った
マントのようなナイロンを体全体にかけてくれた
いきなり女将さんが熱い蒸しタオルで頭を拭いてくれた
間髪を入れず大将がバリカンで襟足付近を刈り取ってゆく
そのうち鈍いバリカンの音が止みハサミの軽やかな音に変わった
長く伸びていた髪の毛は容赦なく刈り取られて肩や床へと落ちてゆく
落ちた髪の毛には幾分か白髪が混じっていた
「今年は寒いですねえ」と大将が声をかけ私との会話が始まる
正面の鏡に写っている自分の変わらない顔を見る
いつの間にか顔のしわが多くなったような気がする
そっと顔を動かしてみるが頭の天辺はまだ禿げてはいない
変わり行く自分の頭の姿を20分余りも飽きもせず見ていた
やがて頭の刈り取りは終り襟足に生ぬるシェーブが塗られた
大将に変わって女将さんがカミソリで剃って行く
やがてリグライニングシートが倒され私の体が仰向けになった
シェーブを塗った顔に蒸しタオルがかけられた
気持ちが良くてまるで夢を見ているようだった
一瞬私は眠ってしまったようだ
蒸しタオルがはがされ正気に戻った
顔を剃り終わるとシートは元に戻された
頭を洗いますね」と女将さんが防水シートをかけてくれた
シャンプーをつけ手でゴシゴシ洗い
仕上げにミントの利いた整髪トニックをかけられた
やがて約50分の散発は終わった
50分前とは見違えるような男前になった
鏡に写った自分の顔に満足し3600円を払った
高いとも思うがこれで1ヶ月持つのだから安いとも思った
また来月のこの時期に散髪屋へ行く予定だ
その頃には春が来て温かくなっていることだろう
大将の飼っているウグイスが店の奥で鳴いている
男前をあげた私はさっそうと引き上げた
「月イチで 通う馴染みの 散髪屋 男前料 3400円」
「少しだけ 白髪増えたが 天辺は 禿げることなく この日を迎え」
「髪切って 寒さ身に染む 街中を 何処か浮き浮き しながら歩く」
「来月も 再来月もと 行く予定 立てる馴染みの 散髪屋さん」