○噂話で再びガンにされた私
「あんた○○知ってるかい」「私も人から聞いた話だけど、人に言われんよ」「言わんから教えて」と、まあ田舎は犬も食わない他愛のない噂話や立ち話が面白半分に飛び交います。もう10年も前の出来事ですが、健康診断で胆のうにポリープが見つかり、摘出手術のため一週間入院をした時の出来事です。胆のうが癒着していたこともあってその後の回復が遅れ、68キロあった体重は瞬く間に13キロも痩せて55キロに減ってしまったのです。大きく膨らんでいたゴムフーセンの空気が選ったように頬は痩せこけて顔は青白く、いかにも病気上がりといった感じでした。
久しぶりにシーサイド公園の砂浜で病気前のように掃除をしていると、顔見知りの口の軽いおばさんが、「若松さん病気じゃったそうですが如何ですか?」と声を掛けてくれました。間髪を入れずそのおばさんは、「あんたガンじゃそうなが、どこのガンじゃったんぞな?」とドキリとするような質問を投げかけられました。「本人を前にどこのガンとはよくぞ聞いてくれました」と相槌を打ち、「誰から聞いたん」と尋ねると、「実は私も○○さんから噂を聞いただけですが、地元ではもっぱらの評判ですよ」と打ち明けてくれました。それにしても「あんたガンじゃとなあ」とは辛らつな質問です。
昨日所用でシーサイド公園を歩いていると、偶然にも口の軽いあのおばさんに出会いました。私と10年前に交わした会話などすっかり忘れ、「若松さん体の調子は如何ですかと」と同じように声を掛けてくれましたが、別れ際、「ガンは転移して再発するかも知れませんので注意して下さい。あんたは双海町にとってなくてはならない人ですから」と言いながら立ち去りました。「なくてはならない人」と持ち上げてはいただきましたが、このおばさんは私がガンの摘出手術をしたと今で信じきっているのです。多分このおばさんはどこかで近いうち、いや直ぐそこで、「若松さんに会ったが顔色も良くて、ガンも一休みのようでしたよ」「ガンは恐ろしい病気じゃきん、再発しないように注意して下さいと言って分かれました」と言うに違いないのです。
噂話の好きなおばさんに、噂話でガンにされた私は、二ヶ月に一回胆のう摘出手術を受けた県立中央病院へ健康診断に行っています。あれから10年が経ちましたが、再び同じおばさんにガンの宣告をされてしまいました。あのおばさんの頭には「若松の進ちゃんはガン」という情報がインプットされているのです。10年前「ところでどこのガン」とおばさんに質問され、シャクに触ったので「近眼(きんガン)」とジョークを言って中笑いし、「真っ直ぐ死んでも胃がん(いがん)で死ぬ」と言って大笑いをしました。笑いは「病は気から」の諺の通り健康にとって欠かせない妙薬のようです。
「この私 噂話の 餌となる ガンにされては 笑う笑えぬ」
「あのおばさん 今頃どこかで 立ち話 顔色いいが ガンは危ない」
「はや10年 元気回復 顔色も たんのうしたと ジョーク飛び出す」
「そろそろと お迎え順が 来る予定 おばさん当てが 外れ落胆」