○小さな輪の広がり
私は縁あって求められるまま色々な場所へ出かけて、講演や講義など色々な話をします。時には日本のど真ん中東京で話したり、時には名前も知られていない小さな草深い山間地へ出かけることもあります。また大は2千人から小は10人足らずまでこれまたまちまちなのです。そしてそれらは池の中へ小石を投げると小さな輪が広がるように小さく大きく広がって、次の機会へと広がって行くのです。それは話をした私にとって無上の喜びであり、声がかかれば遠隔地であったり少人数であっても、無理をしてでも出かけるようにしています。
今年の9月3日、松山市民会館で愛媛県老人クラブ発足50周年記念大会があり、記念講演を頼まれて出かけました。千人を超える高齢者が県内から集まっていました。高齢者は若者に比べ一テンポ遅いと思われていますが、どうしてどうして、参加した人から何枚かのハガキをいただきましたし、わが老人クラブへも話に来て欲しいという講演依頼が何件か届いているのです。私はその都度ハガキで返信し、「講演料がないないのですが・・・」とか、「遠くて小さな集会なのですが・・・」と心配する人たちに、「大丈夫ですよ」と電話で話し講演依頼に快く応じているのです。
昨日はそんなご縁で、旧友知人の薬師寺智彦明間公民館長さんの声係りもあって、西予市宇和町多田老人クラブの研修会に出かけました。大洲から宇和に抜ける長いトンネルを抜け、急な坂道を下って宇和盆地に入ると間もなく多田地区です。松岡会長さんが手書きで書いて送ってくれた地図を頼りに迷うことなく10時に会場となる公民館に到着しました。2階では既に開会式は始まっているようで、靴箱は満杯で自分の靴の置き場が無いほどでした。入り口では早くも一見豪華な弁当が到着していて多少混雑していました。
奥まった控え室へ案内されましたが、対応してくれた人は渡辺静子さんという80がらみの女性でした。いきなり「私は松山市民会館で9月にあなたの話を聞きました。面白くてためになって、一緒に行った会長さんと、うちの会員にもあなたの話を聞かせたいと思い、伝を頼って依頼し、やっとのことで夢が叶いました。とても嬉しいです。」と持ち上げられました。それから20分静子さんは私を独占して楽しいおしゃべりをしました。静子さんは自分でも言うように名前と正反対のような方で、「あなたと20分も二人で話せて嬉しい」と話されました。
会場は既に満席で、それから約一時間、一番前に座ったおばさんの入れ歯が公演中に落ちるのが見えたほど笑い声が充満した講演会でした。講演が終わって控え室でお茶をいただいていると、昔公民館に勤めていた順子さんが懐かしい顔を見せてくれました。ご主人は既に亡くなったそうで、お互い寄る年波を感じながら暫く昔の話に花を咲かせました。昼前に皆さんに見送られて会場を後にしましたが、今日もいいご縁をいただきました。帰宅後早速松岡会長さん宛にお礼のハガキを一枚したためました。
「松山で 話した話 広がりて お座敷かかり 今日も出かける」
「私ねえ 名前は静子 言うけれど 賑やかなんよ 吐露して喋る」
「前の席 座るおばちゃん 入れ歯落ち 思わずあっけ 話しながらも」
「懐かしき 人も私も 年波の 寄る宿命を 感じて握手」