〇名残の椿
春が来て、桜に人々の目や心は奪われているようですが、海沿いに面した暖地の四国愛媛県双海町では、そこここに椿の花が咲いて、人知れず名残の花を咲かせたり散らしているのです。風情を楽しみたい私としては野山にひっそりと咲くやぶ椿の赤い花が何とも愛しいのです。
最近は椿愛好者も結構増えて、品種改良や輸入品種も増え、春先には展示会などを行われているようですが、艶やかな西洋椿もさることながら、やぶ椿も単調さゆえに大好きな品種なのです。厚手の濃い緑の葉っぱの上に対照的に配置された赤い色、そして黄色い雌しべは何ともいえない美しさなので、可愛そうだとは思いましたが一輪折って持ち帰り、備前焼の一輪挿しに挿して机の上に置きました。
ふと去年の夏から秋にかけてかまどを造った時のことを思い出しました。老練な本田さんという左官さんお願いしてかまどを2基造ってもらいましたが、その折かまどに塗ったべんがら色を際出させるため本田さんは、人間牧場の椿の葉っぱを細かく砕いて布に包み、かまどを磨き始めたのです。椿にはつばき油というのがあるくらい植物油が豊富です。花が終わると私たちが子どもの頃、「かたちもも」と呼んでいたボール状の実を幾つもつけるのです。それらは全て見向きもされることなく地上に落下して砕け、中の実は鳥たちに運ばれてあちこちで芽吹くのです。
これまでまちづくりで特産品づくりを手がけてきた私としては、このい未利用資源を何とかできないかいつも考えていました。椿油は伊豆大島、「あんこ椿は恋の花」などで知られていますが、この油の活用と利用方法を考えたら面白いと、椿の花を愛でながら思いました。
早速今年の夏には「かたちもも」を野山に分け入って拾い集めて油を絞ることを考えてみたいと思っています。この油がもし食用になるようなら最高なのでしょうが、油は化粧品や磨き油としても利用できるはずなのです。せっかく本田さんという左官さんがヒントをくれたのですから考えてみたいものです。
子どもの頃はこの花をポロリともぎ取って、花茎の穴から花蜜を吸って遊びました。まるで蝶やミツバチのように甘い蜜を吸った経験は、食べ物に不自由した戦後間もない少年時代の思い出として今も忘れることが出来ないのです。
「人知れず 野山に咲きし やぶ椿 見る人もなく やがて散りゆく」
「濃い緑 葉っぱがゆえに 赤い花 見事に咲いて 目心奪う」
「かたちもも 何かの役に 立たないか 今年の夏は 挑戦したい」
「やぶ椿 去年今年も 来年も 見る人なくも 咲いて散り落ち」