○不燃物磨けば立派なお宝に
近所に住む妹が何やら古い鉄の塊をおやじの所に持ち込みました。日ごろはこのところの寒さで冬眠暮らしをしているようなおやじですが、生きがい発見とでも言うのでしょうか、その鉄の塊を見てワイヤブラシで磨き始めたのです。妹にとっては古い家を壊して新築した際に出たゴミなのですが、おやじにとっては新しい生きがいの対象物なのです。
隠居へ呼ばれた私に目利きするよう言われても、おやじの方がはるかに目利きなので同調するしかありませんでした。鉄瓶はさして珍しいものではないのですが、その下の炉は見たこともないような物なので「磨いたら面白いかも知れない」と言い残しその場を去りましたが、昨日は一日中それらをいじくっていました。
今朝、朝のあいさつにおやじの隠居へ行って驚きました。誰も見向きもしない鉄の塊が錆を落とされ立派なお宝に変身しているではありませんか。おやじも「余りいいものではないが、珍しい道具だ」と満足しきって盛んに磨いていました。まさに「磨かぬ宝光なし」でしょう。
このように私のおやじは古いものを大事にする古風さと目利き、それに器用な腕を持っているため色々な人が色々な物体を持ってきてくれるのです。
3年程前だったでしょうか、ある人が室戸へ仲間と旅した折、海岸に得体の知れぬ鉄の塊を見つけたそうです。次の年に行っても同じように転がっていたので、珍しいと車に積んで拾って帰りました。庭の隅に置いていたのですが赤茶けた鉄の塊は何とも奇妙で、家族も気味悪くなって私の元へ届いたのです。「あなたが気味悪いものは私も気味悪い」と断ったのですが、懇願されてわが家へ運ばれて来ました。
おやじはそれ以来、ワイヤブラシで床置きにするような鉄本来の黒光りまで磨き上げてしまったのです。私もこの物体の正体を色々調べましたが結局は何なのか分からずじまいでした。私はこの鉄の塊を「くじらの卵」と名付けて大切に保管しています。先日も持ち込んだ彼がやって来て、余りの見事さに「返してくれ」といわんばかりでした。
おやじは凄いと思います。88歳の老域とは思えないパワーは到底真似の出来ないものです。私は時々知り合いの骨董屋を訪ね、金など出さないガラクタ1点・2点を貰って帰り、父にプレゼントします。父は喜んでそれを磨くのです。妹もそのことを知っての不燃物持込みだったようです。
「不燃物父の手により光りだす値打ちなくても生きがいの足し」
「尺取の虫にも似たりコツコツと俺も老後はあんな生き方」
「機関銃魚雷まである俺が家今度はドデカイ鯨の卵が」
「親父言う今度は俺が展示品古くなったぞもうそろそろか」