○もがり笛の鳴るころ
いよいよ冬将軍がやって来ました。例年だと正月前は以外と穏やかな日が続くものですが、今年は例年になく寒く、もがり笛が良く聞こえます。「えっ、もがり笛って何ですか」といわれそうですが、この言葉は俳句の季語にもあるのですから方言でなく共通語だと思うのです。冬になると海は白馬が走ると表現するくらい季節風が吹き荒れますが、その様子を海が「もがる」と表現します。「もがる」とは海の上と下をひっくり返えすような状態をいいます。
もがり笛は風がヒューヒュー鳴ることです。特に強い北風が電線や木に吹き付けると様々音に聞こえるのです。
普通風は微風だと吹いていることすら感じませんが弱風になると爽やかさを感じ、強風は物体の揺れを伴うので風の動きを余計体感します。もがり笛は側耳を立てて聴くと何か物悲しくも感じられ、その様子はこれまでにも多くの人が詩や歌、俳句などで詩情豊かに表現してきました。
わが町は東シナ海の季節風が関門海峡を越えて広い伊予灘に入って強さを増幅するので風が強く、冬の体感温度はとても冷たく感じますし、もがり笛は一際高く聞こえるのです。
この風をまちの活性化に役立たせてはどうかと、私の町でも色々と考えました。最近日本全国に設置されている大きな風車で発電をする案も検討され、色々な人が色々な場所へ視察研修に出掛けたりもしましたが、結局は実りませんでした。しかし当時は珍しかった風車も日本全国にこうも沢山できると珍しくも何でもなく、今にして思えば原風景を壊すものだから、よくぞ止めたと一周遅れのトップランナーであるわが町を褒めてあげたい気持ちにすらなるのです。多分風車の回る音は人工のもがり笛として住民の安眠を阻害したに違いありません。
日々あくせく生きる私たちですが、せめて風の音やささやき、それに冬の風物であるもがり笛を聴くくらいの余裕は持ちたいものです。
「もがり笛ひゅーひゅーひゅーと音が鳴る風の大声何と聴くか」
「強弱く音楽奏でるもがり笛作曲すれば滝廉みたいに」
「冬来れば夏が好きだとわれ思う芯の弱さ気になりながら」
「旅立ちの明日は晴れてと祈りつつもがり笛聞き床につくなり」