○お寺のコンサート
普通お寺といえば葬式や供養のために出掛ける場所であり、88箇所のような札所を除けば、檀家の人以外には滅多に行く場所ではないのですが、最近は世の中が変わったのか、いや人間が変わったのでしょう、様々な催しがお寺であって随分あちらこちらのお寺へ行くようになりました。昨晩も伊予市に栄養寺というお寺でモンゴル国立民族音楽団のコンサートがあるというので、誘われるままに出掛けました。まるで健康を考えるにはピッタリのようなその名も栄養寺へは、伊予市の文化活動「宮内邸を守る会」の拠点となっているので、これまでにも何度も足を運んでいますが、昨晩のコンサートはモンゴルの民俗音楽で、物悲しい、そして力強いメロディや声に久しぶりに感動を覚えました。
モンゴルといえば今話題の大相撲朝青龍のふるさとです。冬にはマイナス20度以下に下がるという厳しい気候、遊牧民やゲル、何処までも広がる大草原、ジンギスカンなどを連想するだけで、その国の知識は何ら持ち合わせていませんが、人口220万人の小さな国であったり数年前の大寒波で家畜が死んで都会へ移り住む人が増えたことなど、出演したハスバートルさんの流暢な日本語レクチャーで始めてその国のことを知りました。
民族衣装に身をまとった出演者はハスバートルさんとエンフバットさんの二人だけ、それに伊予高校へ留学で来ている女子高校生一人の友情出演という少数でしたが、お寺の本堂に響く馬頭琴やリンベ(笛)、それにホーミー(裏声)は人間ののなせる業とは思えない素敵なものでした。
特にリンベと呼ばれる笛は、笛自体特別なものではないものの、演奏方法は不思議そのもので、口から息を吹き出して笛を吹くと同時に鼻から息を吸い込むという常識では考えられないものでした。したがって何分でも笛を吹き続けられるのです。自分で試しにやってみましたが出来ませんでした。またホーミという不思議な声も水の音や風の音を表して何とも奇妙な声なのです。私は目をつぶり耳を澄まして馬頭琴や笛の音色を聞きながら、まだ見たこともないモンゴルに思いをはせてみました。自然と動物と人間の織り成す何かが感じられました。多分それは私の少年の頃の思い出のような、ゆったりとした時の流れだと思いました。家族愛、謙虚さ、風や水の流れ、太陽の輝き、野辺に咲く花など忘れられた日本の原風景が蘇ってきました。同じアジア民族でありながら、まるで生き馬の目を抜くようなあくせく社会に生きる私たちが、もう一度思い出したい「何か」がそこにあるようでした。
「悲しくも強くも響く馬頭琴瞼閉じれば少年の頃」
「吹いて吸う同時に出来る笛の音が寺の本堂涼しく流る」
「あの顔もこの顔も見た同じ顔顔々集まる田舎のお寺」
「ストーブの横に陣取り馬頭琴柱が邪魔して側耳立てる」